「ICTの活用」という言葉、よく耳にしますよね。ICTとは、「情報通信技術」を意味するInformation and Communication Technologyの略語です。以前は、IT(Information Technology=情報技術)という言葉が使われていました。しかし2000年代に入り、海外ではICTの方がよく使われるようになったことから、日本でも総務省がICTと表記するようになりました。実のところ、それほど意味は変わらないようです。
介護分野でもICTがどんどん活用されている
さてこのICTですが、介護分野でも活用されています。たとえば、高齢者の見守り。マイクロ波で呼吸や心拍、寝返りなどの動きを計測して、無線でパソコンやスマートフォンに計測データを送信。グラフで示しながら、状態の変化をリアルタイムで把握できるようにしたシステムが発表されました(*1)。
データを取りながら継続的に見守ることから、体調の変化を見つけやすく、病気の早期発見にもつながるのではないかと期待されています。
ICTの活用例はそのほかにも、
●高齢者のお腹に貼り付けた超音波センサーで排泄のタイミングを予知し、介助者に通知するシステム
●介護職がめがね型の電子機器をかけて、そこから高齢者と交わした会話や血圧などの測定結果を自動的に電子カルテに送信するシステム
●地域で、介護保険外のサポートが必要な人とサポートを提供したい人をマッチングさせるステム
●クラウドコンピューティング(*2)を活用した介護と医療の情報共有・連携システム
などいろいろあります。
医療分野では、テレビ会議システムで遠隔地をつなぐ遠隔診療や、スマートフォンのカメラを使って患部や患者の顔色を見ながら、医師がアドバイスをする健康相談サービスなどがすでに行われています。遠隔医療に関しては、政府も積極的に推進する立場です。
ICTを積極的に活用して負担軽減を
LINEのトークルーム。LINE株式会社ホームページより
ICT活用の目的の一つは省力化。前述の見守りシステムは詳細がわかりませんが、設置した機器を一括でモニターできたら見守りの負担はかなり軽くなりそうです。また、呼吸と心拍だけでなく体温なども加え、正常値より大幅に高くなったときにアラームが鳴る設定があれば、夜勤帯の巡回の回数を減らすことができるかもしれません。さらに、排泄のタイミングを予知するセンサーからの通知も付け加われば、ますます省力化が可能です。
今後は、ICTの活用で介護の現場の2大課題とも言える、記録と情報共有の問題を解決できるといいですよね。めがね型の電子機器による記録システムも、省力化に大きく貢献しそうです。また、グループで使用できるテキストチャット(文字のやりとりでのおしゃべり)でケアの情報共有するのもいいですよね。
たとえば、よく知られている一般向け無料チャットアプリLINEのようなソフト。LINEはメールと違って、グループのトークルームをつくり、グループメンバーそれぞれが書き込んだ内容を見ながらやりとりすることもできます。「トークルーム」の画面でそれまでのやりとりもさかのぼって見ることも可能。こうしたソフトを利用し、利用者ごとにケア関係者のグループをつくれば、その利用者の情報を全員で簡単に共有できます。
ICTを使いこなせば仕事が楽になる
テキストチャットを使用する場合は、たとえば、朝、訪問したヘルパーが「いつも30分程度で食べきるのに、今朝は1時間かかりました」と書き込みます。昼に訪問したヘルパーが、さらに「いつもは全量食べきるのに、昼食は主食、副食とも半分程度しか食べられませんでした。訪問看護さん、確認よろしくお願いします」と書く。
午後、訪問看護師が、その情報をもとに身体の状態を確認。「お腹が動いていないようなので、主治医に連絡しました。明日受診するようにとのことです。ケアマネさん、調整お願いします」と看護師。これを見たケアマネが、受診に同行するヘルパーを調整する、といった連係プレーが可能になります。スマートフォンやタブレットを使用しているのであれば、移動中の空き時間に書き込むこともできそうです。
LINEなどの一般向けチャットは、セキュリティの面から仕事で使うには不安という声もあります。そこで、セキュリティレベルの高いビジネスチャットも、様々な会社が開発しています。
訪問介護事業者などでは、ヘルパー間の情報共有のために導入しているところもあるようです。ビジネスチャットが普及し、さらにそれが介護記録を兼ねられるような仕様になっていけば、ケアの現場の省力化につながりそうです。
介護職は、ICT機器に苦手意識を持っている人が少なくないですよね。慣れるまでは一時的に仕事量が増えたように感じ、負担感があるかもしれません。しかし、慣れれば、仕事がよりスムーズに進められるようになるはず。
今後は、介護職の人数がさらに不足することが明らかになっています。ICTの活用で効率化できる部分はどんどん省力化していって、介護職本来のケアに注力できるようにしていけるといいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 電通大発ベンチャー、高齢者見守りで新システム マイクロ波で動き感知 (日本経済新聞 2016年6月14日)
*2 クラウドコンピューティング…手元のコンピュータ端末で利用・管理していたソフトウェアや様々なデータを、インターネットなどのネットワーク上にあるサーバにアクセスして利用・管理すること。