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2019年07月25日

介護施設で「利用者の自由」と「安全確保」はどのように両立できるか | 「介護求人ナビ 介護転職お役立ち情報」

認知症による行方不明者数が6年連続で過去最多に

2018年に認知症が原因で行方不明になった人が1万6927人となり、6年連続で過去最多を更新したことが2019年6月の警察庁の発表により明らかになりました(*1)。
このうち、197人は、2018年中には所在が明らかになっていません。
また、2018年以前に届け出が出されている人を含めて、行方不明になった人のうち97%に当たる1万6358人の所在が2018年内に確認されていますが、508人の死亡が確認されています(*2)。
捜索願を出した当日に70.3%に当たる1万1905人が、1週間以内に99.3%が見つかっていますが、2年以上たってから見つかった人も2人います。

厚生労働省は、2014年度に「身元不明の認知症高齢者等に関する特設サイト」を開設。
各都道府県の情報サイトにリンクしており、全国で保護された身元不明者の情報にアクセスしやすくなりました。
都道府県によっては、保護した年月日、身長、体重、推定年齢、持ち物などを掲載。自称や顔写真を公表している自治体もあります。

また、この特設サイトには各都道府県警へのリンクもあります。こちらは反対に、「この人を探してください」など、行方不明になった人を探す家族等からの情報を掲載。中には、顔写真や行方不明になったときの状況などを公表し、広く情報提供を呼びかけている警察もあります。


高齢者の「安全確保」と「自由・尊厳の維持」のバランスは?

認知症を持つ人の行方不明問題。
「安全を守り、行方不明者を出さないこと」と、「認知症を持つ人の自由と尊厳を守ること」のバランスをどうとるかは、介護職にとっても大きな課題です。

介護施設・事業所では、「身体拘束ゼロ」が求められています。今は、特別な事情がない限り、拘束帯を使ったり、車いすにテーブルを設置したりして、移動の自由を奪うケースは見られなくなりました。

しかし、決まった番号を入力しないと操作できないエレベーターや玄関ドア、深く沈み込んで立ち上がりにくいソファの使用などは、今もよく見られます。
こうしたものも、自由意志で移動ができないという視点からすると、身体拘束に当たるのではないかという意見があります。皆さんはどう考えているでしょうか。

もっと言えば、立ち上がるとアラームが鳴る座面センサーや、ベッドから移動しようと足を下ろすとアラームが鳴るセンサーマットなども、本人にとっては拘束感が強いものです。

こうしたものがないと、見失い、施設や事業所の外に出て行かれて、本人が行方不明になる恐れがある。安全を守れない。だから使用せざるを得ない。
そう考える介護職も多いことと思います。


「利用者を制限しない」他フロアへの移動や外出を制限せず“見守る”方法も

一方で、こうした拘束感のある介護機器は一切使わないという施設・事業所もあります。
ある施設では、入所者がエレベーターに乗って他のフロアに移動することなど日常茶飯事。お互い様なので、それぞれのフロアで「遊びに来たんですね」と受け入れ、本来のフロアの職員に連絡は入れても、迎えに来るよう呼ぶことはありません。

お茶を出してしばらく一緒に話をすると、そのうち満足し、「じゃ、帰るわ」と言うので、本来のフロアまで送り届けるという対応です。
何回かエレベーターで移動していた人も、次第に移動しなくなると言います。

玄関から出て行こうとする入所者を、あえて止めないという施設もあります。事務職員も含め、見かけた人が、「ちょうど私も出かけるところで」と声をかけて、本人の気が済むまで一緒に歩いたり、「買い物に一緒に行きませんか」と車でスーパーに行ったりするそうです。

歩いて出た人と一緒にひとしきり歩いたところで、「疲れたから少し休みませんか」と声をかけます。そして、コンビニのベンチなどから施設に電話をして迎えの車を呼びます。車で迎えに来た職員は、「通りかかったら姿が見えたから」と声をかけ、一緒に車で帰ります。
これも何回か繰り返すと、そのうち出かけなくなると言います。

人は制限されると拘束感から不安を感じ、制限から逃れたくなります。
しかし、制限がない居心地のいい場で過ごしていると、あえて特別な行動をとる必要を感じなくなるのですね。

座面センサーが鳴るたびに、「座っていてくださいね」と言われれば言われるほど、その拘束感から逃れたくなりそうです。逆転の発想での対応を検討してみる価値はありそうです。

ただ、自由に動き回れれば、転倒などのリスクは高くなります。利用者も自由に動き回れるという方針で運営している施設や事業所は、入所や利用の契約の際、方針を説明し、転倒や場合によっては行方不明になるリスクについても、家族に理解を求めると言います。

入所者の尊厳と自由を守るためには、リスクが伴うことを、家族にも理解してもらう必要があります。理解を示してもらえない場合は、お互いのために、契約しないという選択も必要だと言えるでしょう。

安全確保と、自由と尊厳の維持を完全に両立するのはきっと難しいことでしょう。しかし安全ばかりを追求しては、高齢者も介護職も息苦しくなってしまいます
どこでバランスをとればいいのか。
介護とは、こうした正解のない問いの答えを探し続ける仕事なのかもしれません。

<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>

*1 認知症の不明者、6年連続最多更新 行方不明者全体の2割(朝日新聞 2019年6月20日)
*2 認知症で不明1万6000人超 6年連続で最多更新(毎日新聞 2019年6月20日)

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