外国人介護士を、技能実習制度でも受け入れへ
EPA(経済連携協定)による外国人介護士の受け入れが始まったのは、2008年のこと。以来、8年たちますが、インドネシア、ベトナム、フィリピンから受け入れた介護士は、累計約3800人。たったこれだけ?と思うような人数です。といっても、そもそもEPAによる介護士の受け入れは、建前上は「人材交流」が目的。介護士不足を補うためのものではないですから、受け入れた介護士が少ないのは当然のことかもしれません。しかし、2025年には約38万人の介護士が不足するという推計値も出ており、何らかの対策が必要です。そこで、政府は今後、「外国人技能実習制度」により海外の介護人材を受け入れていくことにしました(*)。
「外国人技能実習制度」とは、アジアなどの開発途上国等で経済発展の担い手となる人材を育成するため、一定期間、日本の産業界で実習生として受け入れて技能を習得してもらうというもの。EPAでの受け入れ同様、こちらも実習期間内に介護福祉士の資格を取得できれば、そのまま日本で働き続けられるようにする方向で検討が進められています。こちらも、「国際協力・国際貢献の一翼を担う制度」といいつつ、実態としては人材確保のためのようです。しかし、果たして思惑通りにいくのかどうか、疑問があります。
厳しすぎる日本の外国人介護士受け入れ条件
当初、EPAでの受け入れでは、受け入れ枠を大幅に上回る希望者がいました。しかし、今ではその人気も陰りを見せています。応募には一定の日本語能力が求められる上、来日後、4年以内に日本語での介護福祉士試験に合格しなければ日本で働き続けることができないからです。
日本は、フィリピンをはじめとしたアジアの国々にとって身近な存在です。超高齢社会のトップランナーでもある、先進的な日本の介護を学びたいというアジアの人材は少なくありません。しかし、EPAでの受け入れの厳しい条件をクリアしてまで日本で働きたいかというと、どうでしょうか。
英語を公用語としているフィリピンは、労働力の輸出を外貨獲得の一つの手段としています。働く場として選ぶのは、待遇がよく、働きやすい国です。介護人材も、多くはアメリカやカナダなどの英語圏で働いています。なぜ日本が選ばれないかといえば、一つには日本語を習得しなくてはならないからです。日常使っている英語で働ける英語圏の方が、働きやすいのです。さらには、待遇も働く場としてのステイタスもアメリカ等の方が高いといわれています。
今や日本はアジアの人材から選ばれない国に
日本の外国人介護士受け入れが拡大する日に備えて、10年以上前からアジアで介護人材の育成を手がけていた企業がありました。その企業が10数年前、初めてアジアで介護人材育成の学校を開設したところ、多数の入学希望者が殺到したといいます。しかしそれから数年後には、入学希望者を募集しても、定員割れになってしまったといいます。この10年で、アジアの介護人材の情勢は大きく変化し、日本は、アジアの介護人材にとって、働く場としての魅力が乏しくなってきているのです。
今後は、中国が急速に高齢化していきます。アメリカやカナダに加えて、中国ともアジアの介護人材の争奪戦に入っていくのです。今のままの厳しい受け入れ条件では、日本はますます選ばれなくなります。外国人介護士を本気で介護人材不足の担い手にするのであれば、受け入れ条件はもっと検討していく必要がありそうです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*介護実習で残留資格 外国人の長期就労促す (日本経済新聞 2016年10月26日)