「認知症の親」の預金が引き出せない!介護家族の悩み
2020年3月、全国銀行協会が、
認知症など判断能力が低下した高齢者の預金を、家族でも引き出せる業界統一の対応を決めました。3月中に通達を出し、各銀行に対応を促すこととなりました(*)。
記事によると、
●戸籍抄本などで家族関係が証明できる
●施設や病院などの請求書によってお金の使い道が確認できる
この2つの条件を満たしている場合、家族でも認知症のある人の口座から預金を引き出したり、振り込みをしたりできるようになるとのことです。
これは認知症の親を介護する家族等にとって朗報です。
介護職にとっても、認知症のある人の預金引き出し問題に悩む介護家族の姿を目にする機会が多かったのではないかと思います。
例えば、有料老人ホームへの入居。
本人に認知症があると、家族が入居金の支払いのために本人の口座から預金を引き出そうとしても、認めない金融機関がほとんどだったと思います。
預金引き出しのための「成年後見人」はハードルが高い?
認知症のある人の預金を引き出すためには、多くの場合、成年後見人を立てるよう、金融機関から求められます。
しかし、成年後見人の役割は、当然、預金の引き出しだけではありません。介護サービスの契約から金銭管理まで、後見人が本人の権利を守るための支援に当たるのです。
そして、後見人は選任されると、原則として被後見人である認知症のある高齢者が亡くなるまで後見業務を担うことになります。
後見人が被後見人である認知症のある高齢者等のために行う判断は、時には家族の意向とは異なる場合もあります。家族の思い通りに、認知症のある人の資産を動かすことはできなくなります。
また、成年後見人に誰を選任するかを決めるのは家庭裁判所であり、家族の意向が通るとは限りません。
家族が後見人を務めるつもりだったのに、弁護士や社会福祉士などの専門職が選任されることもあります。
家庭裁判所が選任した後見人を、家族が拒否することはできません。一度申し立てたら、成年後見の申し立て自体を取り下げることもできません。
家族にとって、後見人を立てることは、認知症になった親などについての
様々な判断や財産のコントロールを一切手放すということなのです。
進まない成年後見制度。そして認知症高齢者の預金が凍結…
認知症のある人の預金引き出しは、本人のためと言っても、家族の思惑が加わることが否定できません。そのため、家族の思惑で認知症のある人などの資産が使われることがないよう、成年後見人を立てることを、これまで金融機関は求めてきたのです。
しかし、成年後見人を立てると、前述のような縛りがかかるため、それを嫌う家族は少なくありません。年間18万円程度の成年後見報酬を本人資産から支払う必要もあります。
後見人の活用が、思ったほど進んでいない背景には、受任できる専門職が足りていないという事情とともに、こうした理由から、
家族が後見申し立てに消極的という事情もあります。
一方、第一生命経済研究所の試算によれば、現在、
日本の家計資産の6割以上を60歳以上の世帯が保有しているとされています。
そして、今後、認知症のある人が増えていき、家計資産に占める認知症の人が持つ資産の割合は、さらに高まることも試算されています。
金融機関としても、このような状況の中、認知症になった預金者の資産を“塩漬け”のままにしておくわけにはいきません。そこで、今回の通達に踏み切ったのです。
■世帯主年齢階層別個人金融資産額(2017年度末)
出典:第一生命経済研究所「認知症患者の金融資産200兆円の未来」
■認知症患者の保有する金融資産額(推計と将来試算)
出典:第一生命経済研究所「認知症患者の金融資産200兆円の未来」
成年後見制度の活用が進まない現状の中、全国銀行協会が一定の条件下で、家族が預金を引き出せることとしたのは、現実的で実効性のある対応だと思います。
介護職のみなさんも、認知症のある人の預金引き出し問題で困っている利用者に、是非この情報を伝えてあげてほしいと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*認知症 家族出金しやすく(日本経済新聞 2020年3月11日)
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