国家資格なのに試験なし。介護福祉士取得3ルートの疑問点
『介護福祉士資格を取得するには、国家試験合格を義務としよう。』
そう、法律で決まったのは2007年のこと。
この義務化がまた延期になることが、2020年1月20日の自由民主党厚生労働部会で明らかになりました。これで4回目の延期です。
日本介護福祉士会は、今回の国家試験義務化の再度の延期について、早速、反対の意見表明をしています(*)。
介護福祉士の資格取得には、
(1)3年以上の実務経験+6ヶ月以上の介護職員実務者研修修了後に介護福祉士国家試験を受験する「実務経験ルート」
(2)2年以上1,800時間以上の養成課程を修了する「養成施設ルート」
(3)3年以上1,855時間(53単位)以上の履修を終えて介護福祉士国家試験を受験する「福祉系高校ルート」
の3つがあります。
このうち、「(1)実務経験ルート」と「(3)福祉系高校ルート」については、当初から、国家試験の合格が介護福祉士資格取得には必須でした。
一方、福祉系大学や専門学校などの「(2)養成施設ルート」では、所定の科目を修了すれば、国家試験を受けずに資格を取得することができます。
これについては以前から、国家資格にもかかわらず、養成課程を修了するだけで取得できるのはいかがなものかという指摘がありました。他の国家資格でも、講習等の受講により国家試験なしで取得できるものは、「防火管理者」などごく一部だけなのです。
また、養成施設によって、修了生のレベルにばらつきがあるという指摘もありました。
そのため2012年度からは、「実務経験ルート」「養成施設ルート」「福祉系高校ルート」のどのルートで介護福祉士を目指しても、一律に国家資格合格を義務とすることで、介護福祉士の質を担保しようということになったのです。
介護福祉士の国家試験義務化、導入の障害とは?
ところが、この『国家試験義務化』が延期に次ぐ延期。
まず2011年に、『2012年度から』とされていた国家試験義務化が『2015年度から』に延期。
2014年には、『2016年度から』と1年延期された後、さらに延期が決まり、いつまで延期されるかも当初は明示されませんでした。
その後、2016年には、2017年度から2021年度に養成施設を修了した人には、5年間限定の介護福祉士資格を授与するという経過措置が設けられました。
この5年間限定の介護福祉士資格の「限定」解除には、2つの方法が示されています。
一つは、養成施設の修了後、介護福祉士としての登録をしてから
5年間のうちに国家試験に合格すること。
もう一つは、同じく登録後の4月1日から
5年間、規定されている介護等の業務に継続して従事すること。
2016年にこの経過措置が示された時点では、経過措置の5年間が明けた2022年度から、養成施設ルートでも国家試験合格が義務化されることとされていました。
それが、またもや延期になり、経過措置期間が延びることになるのです。
その背景には、養成施設で学ぶ学生の多くが、海外からの留学生、つまり外国人介護士の卵となったこともあります。2017年から養成施設修了で介護福祉士資格を取得した海外人材を対象とした在留資格「介護」が設けられ、2019年からは外国人技能実習制度でも介護人材の受け入れが始まりました。
国家試験合格を介護福祉士資格取得の必須条件にすることは、介護人材のレベルアップにつながる一方で、海外からの人材も含め、介護人材確保の障害になるという声が根強いのです。
新しい資格「准介護福祉士」は一体誰のための資格?
介護福祉士の資格に関して言うと、「准介護福祉士」という資格も新たに設けられることが決まっています。
これは、養成施設を修了し、国家試験を受けたものの不合格であった人と、国家試験を受けなかった人に与えられる資格です。国家資格なのか、何なのかも不明です。
国家試験に落ちて得られる資格、試験を受けないがために得られる資格というのは、いかにも奇妙です。しかも、前述の介護福祉士取得ルートの(1)実務経験ルート、(3)福祉系高校ルートで国家試験を受験し、不合格になった人は、「准介護福祉士」を名乗ることはできません。
この奇妙な資格の創設は、養成施設ルートでの国家試験合格が義務づけられると決まった2007年当時、EPA(経済連携協定)での外国人介護士受け入れの話が進められていたことと関係があると言われています。
当時、EPAで来日する介護人材は、介護福祉士資格を取得すればそのまま在留できることとされていました。来日する介護人材は、(1)実務経験ルート、あるいは(2)養成施設ルートでの介護福祉士資格取得を目指します。
EPAでの外国人介護士の受け入れが決まった時点では、養成施設ルートに国家試験受験は義務づけられていませんでした。
そうなると、『養成施設修了→介護福祉士資格取得→そのまま在留できる』、と考えて来日した海外からの介護人材にとっては、介護福祉士国家試験の義務化は「話が違う」ということになってしまいます。
そうした事情もあって、准介護福祉士という資格が、養成施設ルートにだけ設けられたと言われています。
この「准介護福祉士」資格も、2016年度からの導入予定が2022年度まで延期されました。
養成施設ルートでの介護福祉士資格取得に経過措置も設けるのですから、このような中途半端な資格をわざわざつくらなくてもいいのではないかと思うのですが……。
介護人材の質の担保をしていく上でも、本当に必要な資格なのでしょうか?
介護の現場で働く皆さんはどう思われるでしょうか。こうした問題にも是非関心を持って見守っていただければと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*介護福祉士会、国試義務化の先送りに異論 「本質的な検討を」(JOINT 2020年1月24日)