「DCAT(Disaster Care Assistance Team)」をご存じでしょうか。
「災害派遣福祉チーム」のことです。
東日本大震災をきっかけに生まれ、その後、各地で結成されていると言います(*1)。
DCATのチームを構成しているのは、福祉系の専門職たち。
介護福祉士、社会福祉士などです。
介護職の頑張りも、災害後3日目には限界に
東日本大震災の直後、被災地では介護職員が家族の生死を知ることもできず、家族に自分が無事であることを伝える余裕もなく、利用者のケアに追われたといいます。
2016年に起きた熊本地震の際もそうでしたが、自宅が被災した住民は、近くの特別養護老人ホームなど大規模施設に避難してくることがあります。
デイサービスの利用者とその家族を一緒に受け入れた事業所も、多数ありました。
受け入れた施設、事業所では、安全で落ち着いて過ごせる居場所の確保、食糧や水の確保、おむつなどの衛生材料の確保、トイレや風呂の問題など、様々な課題が次々と持ち上がります。
この対応に当たる介護職は、2日間は必死で頑張れても、3日目には精神的にも肉体的にも限界に達してしまうという声もありました(*2)。
スムーズな支援には、受け入れ側も平時から準備が必要
厚生労働省は2012年4月に、被災時から復興期の高齢者への支援のあり方について、東日本大震災の被災地である岩手県、宮城県、福島県の自治体や高齢者施設等に行ったアンケート、ヒヤリング調査の結果を発表しています。
これによると、被災後の時期によって必要とされるマンパワーに違いがあり、支援側と被災地側のニーズが合わなかったこと、被災地側に支援受け入れの考え方が整理されていなかったことなどから、受け入れがスムーズに進まなかったと報告されています。
▼時期による必要な支援の違い
*被災時から復興期における高齢者への段階的支援とその体制のあり方の調査研究事業報告書(概要版)(株式会社富士通総研 2012年3月)<クリックで拡大>
災害によるダメージで、ケアする人材が不足している「ステージⅠ」では、近隣から支援者を受け入れることでの「量の確保」が必要です。
一方、ある程度、支援人材の量が確保されている「ステージⅡ」では、サービスの「質の確保」が求められると言います。
しかし、やはり支援を受け入れる側に、受け入れ体制の準備ができていないと、実際には受け入れが難しいように思います。
せっかくの支援を生かすためには、平時に、災害で起こりうる状況をシミュレーションし、自分たちでできることと支援が必要なことをある程度想定しておくことが必要です。
“被災”都道府県の“隣接”都道府県を、支援受け入れ窓口に
この調査結果を受けて、厚生労働省では、2012年4月に、「大規模災害時における被災施設から他施設への避難、職員派遣、在宅介護者に対する安全確保対策等について」という事務連絡を発出しています。
この事務連絡により、各都道府県で都道府県域を超えるDCATの派遣体制整備を要請したのです。
冒頭で紹介した新聞記事によれば、2016年3月現在で、14道府県がDCATを設置済み、20都県が前向きに準備を進めているとのこと。
熊本地震の際には、岩手県からDCATが派遣されたそうです。
実際に機能しているという話を聞くと、心強いですね。
事務連絡では、被災した都道府県に隣接する都道府県にもDCATの調整窓口を設置するよう指示しています。
熊本地震の際、日頃からのつながりで県外の介護事業者に支援物資を要請したというある介護事業者は、混乱する熊本県内を避け、隣接する大分県の事業所への送付を依頼したと言います。
全国から大分県への配送はスムーズに行われていたことから、そこを拠点に支援物資を被災地の必要なところに配り、喜ばれたそうです。
災害が起こるのは悲しく困ったことですが、そこで経験したノウハウが蓄積され、次に生かされるのは喜ばしいこと。
DCATも早くDMAT(災害派遣医療チーム)同様、法的な裏付けを持ち、派遣にかかる費用が補償されることを期待したいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 「福祉チーム」も災害派遣 (毎日新聞 2017年1月27日)
*2 「緊急介護チーム創設を」社会福祉法人典人会総所長 内出幸美さん(認知症予防財団 2012年6月)