2015年6月4日、日本創成会議が「東京、神奈川、千葉、埼玉の高齢者に対し、地方都市への移住を促すべき」という提言を発表。大きな話題を呼んでいます(*1)。
日本創成会議とは、新しい国づくりを政府に提案していく民間有識者による政策発信組織(代表・増田寛也元総務大臣)。2014年5月には、若い女性等の人口流出による「消滅可能性都市」が896に上ると発表し、これも世間に大きなインパクトを与えました。
東京圏の高齢化問題とは
今回、日本創成会議・首都圏問題検討分科会が試算、分析した今後の東京圏の高齢化問題は、簡単にまとめると以下のような内容になります(*2)。
【急速な高齢化】
東京圏の高齢化率は2010年時点では20.5%(全国平均23.0%)。若者の流入で高齢化率が引き下げられていた。しかし2020年には高齢化率26%となり、急激な高齢化に突入する。
【介護需要の増加】
団塊の世代が全員75歳以上となる2025年、介護需要は全国平均で32%増の見込み。しかし、東京圏では50%近く増える。
【入院需要の増加】
同様に、入院需要は全国平均14%増のところ、東京圏で21.8%増。
【医療介護人材の不足】
2025年度には全国で約240~280万人の医療介護人材が必要であり、そのうち1/3の約80万人が東京圏で必要。全国的に不足するため、東京圏での確保は困難。
そして、その対応策として、以下が挙げられました。
・医療介護分野の人材依存度を下げること
・地域の医療介護体制の整備と高齢者の住まいの問題を一体的に促進すること
・一都三県が連携し広域対応していくこと
そして、上記の対応策と共に、医療や介護の体制が整っており、高齢者の移住受け入れ能力がある地方への移住促進が提言されたのです。
医療介護分野の効率化の検討は必要では
高齢者の地方移住促進という提案のインパクトが強すぎて、あまり話題にのぼっていませんが、実は、対応策の第一として挙げられているのが、「医療介護分野の人材依存度を下げる」という提案です。
まず、外国人介護人材の受け入れについて、正面から議論し、積極的な受け入れを推進すること。すでに中国や韓国でも高齢化が加速しており、アジア圏での介護人材は争奪戦の時期に入ろうとしています。何しろ、中国では5年後の2020年には、高齢者人口が1億4000万人に。日本の人口より多い高齢者であふれかえるのです。日本が門戸を開いたときには、アジアの人材はすでに誰もいない、という事態になりかねません。
次に、ICT(情報通信技術)やロボット活用による介護サービスの効率化。そして、縦割り行政を改め、共通化できる人員配置を統合して効率的に運営できる仕組みづくりを進めること。これについては、先駆的な介護関係者が以前から、事業者単位ではなく地域単位での人材配置を考え、地域に報酬を付ける発想が必要だと説いています。
例えば、デイサービスの車が同じ時間帯、同じ地域内に何台も走り回っている現状は非常に非効率的です。地域内でそうした重複を整理できる仕組みを作れれば、より地域に密着した効率的な運営ができるのかもしれません。
さらには、すでに厚生労働省も検討しているという、介護や保育の資格の統合。障害者と高齢者、あるいは高齢者と子どもなどの複合施設が全国で徐々に増えてきています。すぐに資格を統合するのは難しくても、隣り合わせで運営することによって、利用者・職員の相互交流を図ることから始めて、どのような仕事なら兼務が可能なのかを考えていくというやり方なら少ない負担でできそうです。
提言では、こうしたサービスの構造改革が、人材の付加価値を向上させて、仕事の魅力を高めることや、給与水準のアップにもつながると指摘しています。
高齢者の地方移住にせよ、資格の統合にせよ、これまでの発想とは違う視点からの提言であるために受け止める側にとってはインパクトが強いですよね。
しかし、高齢化の進展によって、東京圏で介護や医療の体制が厳しくなっていくのは事実。提言をもとに、高齢化で生まれる問題にどんな対応なら可能なのかを、介護や医療の現場で考えていくきっかけにできるとよいのではないでしょうか。
<文:宮下公美子>
*1 東京圏の高齢者、地方移住を 創成会議が41地域提言 (日本経済新聞 2015/6/4)
*2 東京圏高齢化危機回避戦略(2015年6月4日 日本創成会議 首都圏問題検討分科会)