認知症や精神疾患で判断力が衰えたり、大切な家族を亡くして生きる意欲を失ったりしたことで、生活がすさんでいってしまう「セルフネグレクト(自己放任)」。
2017年2月、夫を亡くしたあと、大量のごみに埋もれて動けないまま、足が壊死していた60代後半の女性が助け出されたという報道がありました(*1)。この記事には、女性がセルフネグレクトの疑いがあると書かれていました。
相談先がわからなかったという家族
この女性は、往診医、自治体職員、警察官が関わり、最終的にレスキュー隊員が出動して救出されたとのことです。同居していた30代の娘は、「誰に相談していいかわからなかった」と、涙を流していたと書かれています。
なるほど、健康に暮らしていた高齢者に、身体的なことではなく、心理的な問題が生じたとき、どこに相談すれば良いか迷う人は多いかもしれません。
要介護状態の高齢者にとってのケアマネジャー、生活保護受給者にとっての福祉事務所のケースワーカーなどの支援者が、健康な高齢者にはいないからです。
本来であれば、地域包括支援センターが相談先になるのでしょう。しかし、介護に詳しい住民でなければ、なかなか思いつかないのが実状だと思います。
この記事に関連する話題として、2017年3月、前述のケースとは別のケースについての記事が掲載されました。
30代女性と離れて暮らす60代の母親が、同居していた息子(30代女性の兄)の死後、セルフネグレクト状態に陥っていたという話です(*2)。このケースは、受診が途絶えていることを気にした母親の主治医が娘に連絡したことから医療につながり、解決の糸口となりました。
支援職と住民がもっと早く出会えるように
閉じこもりやセルフネグレクトは外から見えにくく、介入が難しいと言われます。
近所の住民などが気づき、自治体職員や地域包括職員に伝えたとしても、うまく介入できるとは限りません。本人や家族が、「放っておいてほしい」「何も困っていることはない」と拒否する場合もあるからです。
それでもあえてその家に踏み込んでいくには、相応の根拠が求められます。支援する側も、ためらうことが多いことと思います。
そこでよく言われているのが、支援職と住民の出会いのタイミングをもっと早くしていくことです。
難しい問題が生じて初めて支援職が出向くのではなく、健康なときから顔見知りになっておく。相談しやすい関係を作っておく。
そうすることで、困ったことがあったとき、あの人に相談してみよう、と思い出してもらうのです。
早く出会う方法として、毎月、地域の専門職によるセミナーを開催するなど、専門職と住民の関係を近づけようとしている団体があります。
また、ある自治体は、地域の高齢者の介護ニーズ把握のための「日常圏域ニーズ調査」を郵送。それを丁寧に確認するだけでなく、返送してこなかった住民を個別訪問し、支援を必要とする人を見つけ出そうとしています。
介護保険や生活保護などの公的支援は、全て必要としている人が求めていかなくては支援を受けられない「申請主義」です。
しかし、声を上げない、上げられない人ほど、問題を抱え、支援が遅れてしまう恐れがあります。
支援職はそのことを十分に意識することが必要です。支援職の方から住民の中に入っていき、支援が必要な人を見つけ出そうとする。支援に入っている家庭を訪問するとき、近所に気になる家庭がないかを聞いてみる。
そんな努力を続けることが、セルフネグレクトや介護殺人のような悲劇を防ぐことにつながっていくのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 ごみ部屋 女性を救出…体埋もれ、両足壊死(毎日新聞 2017年2月17日)
*2 セルフネグレクト ごみ部屋SOSを 60代母、苦悩の娘(毎日新聞 2017年3月5日)