膨らみ続ける介護費用、今のままの介護保険で大丈夫?
2018年4月から、介護報酬が改定されます。全体では0.54%というごくわずかな報酬引き上げで、その内容は介護報酬の加算が中心。
自立支援や重度化予防に力を入れるよう促す加算が設定されていますが、どれだけその方向へのインセンティブが働くかは未知数です。
一方、ある新聞の社説では、今回の改定では膨らみ続ける介護費用を抑える策が十分ではない、このままでは介護保険の未来が危ういという指摘がありました(*)。
軽度者対象の訪問介護の生活援助を給付対象から外す。介護保険料は20歳以上から徴収する。利用者の自己負担を増やす。
小手先の調整ではなく、このように制度の根本から変えていく必要があると、この社説では訴えています。確かに、数%の介護報酬の増減の繰り返しは、政策方針を伝える意味はあっても財源不足の解決にはなりません。
今後、高齢化の進展に伴い、ますます介護保険の利用者が増え、介護給付費が増大するのは間違いありません。
その中で、今後も介護保険制度を持続させるのであれば、この社説が指摘しているとおり、いずれは財源問題の解決につながる大胆な制度改正が必要になるのかもしれません。
そう考えると、事業者側もこれまで以上に、制度改正に左右されにくい事業運営が求められることになりそうです。
小規模な事業者に支えられている介護業界
介護業界は、小規模事業者が非常に多い業界です。
2016年度の「介護労働実態調査」によれば、介護保険サービス事業者は、従業員数19人以下の事業所が約3割を占めています。
特に、訪問系の事業者は4割強が従業員数19人以下となっています。
▼介護保険サービス事業者の従業員規模
*介護労働安定センター「平成28年度 介護労働実態調査」の結果より
介護業界はまた、事業所数の少ない事業者が多いのも特徴の1つです。1事業所だけで運営している事業者は全体の3割を超えています。
従業員数が少ない傾向にある訪問系は、事業所数もやはり少なく、複数事業所を持たない事業者が5割弱となっています。多数の小規模事業者が、在宅の要介護高齢者を支えているということですね。
▼複数事業所の有無
*介護労働安定センター「平成28年度 介護労働実態調査」の結果より
介護事業者に求められている運営バランスとは?
介護事業者は、介護保険制度開始以前は“福祉事業”“措置事業”であったせいか、「ビジネス」の視点が乏しいという指摘を受けることがあります。
収益性や生産性の向上より、利用者本位のサービス提供を大切にしたい。運営スタイルから、そんな思いを感じる介護事業者も少なくありません。
事業所数を増やし、スケールメリットを追求する事業者があまり多くないのも、収益性への関心が他業界に比べると低いからかもしれません。
介護事業者、あるいは、介護職の中には、介護事業を“ビジネス”ととらえることへの違和感を語る人がいます。お金の話を嫌がり、「介護で金儲けをする気はない」という人もいます。
しかし一方で、多くの介護職からは、「処遇を改善してほしい」「給与が低すぎて仕事を続けたくても続けられない」というお金にまつわる声が聞かれます。
安定した事業の運営と職員の処遇改善を可能にするだけのお金を稼ぎ、儲けることは、“利益の追求に走る金儲け”とは違います。
利用者本位のサービス提供、収益性の向上、そして職員の処遇改善。
介護事業の継続のためには、それをバランス良く行っていくことが必要だと指摘する介護事業者もいます。
それを達成し、他業界と渡り合える処遇と仕事のやりがいを示せれば、介護業界の人材不足解消にもつながりそうです。
前出の「介護労働実態調査」によれば、介護保険サービス以外の事業を実施している介護事業者は5割強。
介護報酬の改定によって収益性が大きく左右される介護保険事業だけに頼らないビジネスモデルの確立は、介護事業者に共通する大きな課題です。
介護保険外サービスによる収益を拡大していくこと。ITの活用等により、生産性を高めていくこと。介護保険制度を今後も長く維持していくためには、国の施策を待つだけでなく、事業者側にも福祉の視点にビジネスの視点をプラスしていくことが求められています。
介護事業を継続できなければ、結局は、利用者に迷惑を掛けることになります。真の利用者本位とは、しっかりと収益を上げ、良質のサービスを安定的に提供し続けることなのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*社説 この改定では介護保険の未来が危うい(日本経済新聞 2018年2月2日)