2018年度介護報酬改定の4つの視点
総選挙の終了後、10月末から社会保障審議会介護給付費分科会で次期介護報酬改定についての議論が本格的に始まりました。
これから12月にかけて議論を行い、12月中旬には「中間まとめ」が発表され、来年1月に答申。4月から改定される予定です。
今回の介護報酬改定に向けた基本的な視点としては、以下の4つが挙げられています(*1)。
(1)地域包括ケアシステムの推進
(2)自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
(3)多様な人材の確保と生産性の向上
(4)介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保
話題を集めているのは、(4)の「制度の安定性・持続可能性の確保」のための介護報酬引き下げです。
下の表の通り、サービス全体としては利益率3.3%と、前年より下がっています。しかし、4.8%の訪問介護、4.9%のデイサービスは、前年より利益率が下がってもまだ平均より高いとのこと。
すでに訪問介護の報酬は引き下げ方向です(*2)。進行中の議論に沿って、2週にわたり、訪問介護の報酬引き下げ問題を取り上げます。
▼各介護サービスにおける収支差率
*第24回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会資料より<クリックで拡大>
よく、営業マンは、努力して営業目標金額を達成すると、翌月はさらに高い目標金額を課せられ、終わりなき闘いを強いられるといわれますよね。
介護保険サービスも努力して利益率を高めると、次の改定で「儲けすぎ」といわれて報酬を引き下げられ、さらに厳しい努力が必要になる。少し通じるところがあるかもしれません。
この果てしない努力の繰り返しは、事業者の疲弊を招いているのではないかと思います。
マイナス改定のたびに、小規模の介護事業所の閉鎖・倒産が相次ぎます。次期改正後もそうならないか心配です。
訪問介護は更なるヘルパー不足になるのでは?
訪問介護は、ヘルパー不足で仕事の依頼があっても受けられない状況の事業所が多いと聞きます。
どれだけ求人をしても一人の応募もないという事業者は多く、ある事業者は「介護職員初任者研修などの資格を取った人は、みな在宅ではなく施設に行ってしまう」と話していました。
その理由としてこの事業者は、施設介護は物理的な移動距離が短いことが、働く人にとって一つの魅力となっていることを挙げていました。
訪問介護のヘルパーは天候に関わらず、1日に複数件の利用者宅を、多くの場合、自転車で移動します。かつては、1日2~3件を訪問し、数時間滞在してサービス提供する形態もありました。
しかし制度改正、報酬引き下げにより、今は分刻みで仕事をこなし、1日7件程度を訪問するヘルパーも少なくありません。
自宅という利用者のテリトリーに一人で入っていき、その場で臨機応変に対応していく訪問介護の仕事は、同僚にサポートを求めやすい施設の介護職に比べて、より高い対応力が求められます。
2016年度の介護労働実態調査によると、訪問ヘルパーの時間給は施設介護職より約300円、日給では約2千円程度、高い傾向にあります。
それでも訪問ヘルパーの担い手が不足するのは、賃金と仕事内容を考え合わせたとき、この金額では見合わないと感じる人が多いのかもしれません。
加えて、訪問介護のヘルパーの平均年齢は、53.3歳です。体力的にも、移動の多い訪問介護の仕事は選びにくいということも考えられます。
介護報酬が引き下げられれば、ヘルパーの賃金は引き上げにくくなります。
非常勤ヘルパーの平均年齢は、この10年で10歳高くなっていると指摘する介護関係者もいます。
つまり今後、訪問介護のヘルパーは、新しく勤めはじめる人が増えていかなければ、年齢的にも自然と減っていく流れです。
新聞記事では、持続可能な制度にしていくためには介護報酬の引き下げが必要だと指摘しています。
その指摘が誤りとは言えませんが、引き下げ続けた先には、制度はあるがサービスの担い手は誰もいない時代が待っているのではないか。そんな心配もあります。
その点も十分に考えた上での対応を考えてほしいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 平成30年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(概要)【PDF】
*2 介護報酬引き下げで制度の持続性高めよ(日本経済新聞 2017年10月30日)