「働き手」ではなかった人にも活躍してもらう時代へ
年々進んでいる、日本の高齢化。
2045年には19道県で、高齢者の比率が4割を超えるという推計が2018年3月に示されました(*)。
最も高齢化率が高くなる秋田県では、2人に1人が65歳以上の高齢者になると推計されています。
今後30年弱の間に、人口減少と高齢化のダブルパンチが、特に地方都市に大きなインパクトを与えることが予想されているのです。
人口が減り、高齢化率が高くなれば、様々な問題が起きてきます。
たとえば、労働力不足。
介護の担い手不足は以前から指摘されていますが、少子化が進めば介護分野だけでなく、日本全体の労働人口が加速度的に減っていきます。
これを解決するには、これまでと違う発想での労働力確保が必要になります。これまで「働き手」と見なされていなかった人たちに、仕事を担ってもらうことも必要かもしれません。
まさに、政府が推進している「一億総活躍社会」の実現です。
元気な高齢者は重要な労働力。働くことで介護予防にも
労働力として期待できる人材の一例として挙げられるのは、やはり元気な高齢者です。
2016年の労働力人口に占める65歳以上の高齢者は11.8%。1980年には4.9%でしたが、以来36年間、一貫して右肩上がりで増えてきました。働く高齢者786万人のうち、65~69歳は450万人。今の60代は若く、現役世代と比べて能力的にも体力的にも劣らない人たちがたくさんいます。まず、こうした人たちにはできる限り仕事を続けてもらうことが必要でしょう。
一方、70歳以上になると、体力、能力、認知機能に個人差が見られるようになってきます。しかし、70歳以上で働いている人たちも336万人います。これからはさらに多くの70代、80代の人材が活躍する時代になることでしょう。
▼労働力人口の推移
出典:平成29年版高齢社会白書
働くことは、実は非常によい介護予防になるとも言われています。
高齢化率が50%の地方のある町では、多くの高齢者が生き生きと働き、年間2億5000万円もの売上げを上げています。
この町で高齢者が携わっているのは、「葉っぱビジネス」。里山に入り、木の葉や花を摘み、それを全国の料亭などに料理の添え物として卸しているのです。
今では200軒もの農家が取り組み、平均して1軒あたり年125万円、多い人は月に100万円を稼ぐとのこと。年金のほかに年125万円もの収入があれば、ゆとりを持った生活を送れそうです。
日々、里山を歩き、葉っぱや花を摘む生活は、健康にもいいはずです。収入にもつながることで、その仕事に前向きに取り組むことができます。手先を使うことで、認知症の予防になるという指摘もあります。
高齢者がそうして元気に働くこの町は、県内で最も医療費が少なく、生活保護世帯も少ないとのこと。
高齢者の就労は、町の経済にも好影響を与えているのです。
個人の能力を生かした働き方へと発想の転換を
こうした取り組み以外にも、1つの仕事を分担して担うという方法もあります。
仕事を細分化し、それぞれの作業に必要な能力・条件を明確化します。そして、体力に自信がない高齢者、認知症を持つ人、障害を持つ人、子どもが幼稚園や学校に行っている間だけ働きたい女性などに分担してもらうのです。
たとえば、介護施設の仕事であれば、朝のお茶出し、フロアの清掃、シーツ交換、食事の配膳などは、手順さえ身につければ介護技術は求められません。そうした仕事を、介護の資格を持たない、短時間働きたい人、障害を持つ人などに担ってもらうのです。
そうすれば、介護職は入所者と向き合う仕事に専念することができます。
また、農業と福祉の連携でも、農作業を細分化することで、認知症や障害を持つ人などでもできることをいろいろ生み出すことができます。
ある農業者は、雇用した人の持つ能力・特性に合わせて仕事を作り出し、それによって全体の生産効率を引き上げる工夫をしていると言います。動きがゆっくりの障害を持つ人に合わせて、温室栽培の作物の上をゆっくりと動かして害虫を吸い取る機械を開発し、それによって害虫の被害を低減した、というようなことです。
発想を変えれば、個々人の能力に応じた仕事を生み出すことは可能です。そして、新たに生み出した仕事によって、省力化や効率化を進めることもできるのです。
要は、そうした取り組みをする意識、意欲を持つことができるかどうかの問題です。
発想の転換。個々の能力を正しくアセスメントする力。アセスメントした力と仕事を結びつけていくコーディネート力。
超高齢社会を生き抜いていくため、これからの介護福祉業界では、そうしたことが非常に重要になっていくことと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*推計人口 高齢者、45年には19道県で40%以上に(毎日新聞 2018年3月30日)