介護のノウハウを教わる介護教室が在宅介護の役に立つ理由
介護職として要介護者のケアをしていると、老老介護や認認介護、働きながら介護する家族など、「家族が共倒れにならないだろうか」と心配になるケースに出会うことがあると思います。
在宅介護は、介護保険のサービスだけではなかなか支えきれません。家族の力が必要になる場面は多いものです。
「自分が何とかしなくては」と考える責任感の強い家族は、一人で介護を背負い込みがちです。
「頑張りすぎないように」「無理をしないで」。奮闘する介護家族に対して、そんな声かけをしている介護職は少なくないと思います。
介護家族をサポートするために、おむつ交換やトイレ介助、車いすへの移乗の仕方、認知症のある人へ対応の工夫などを伝える家族介護教室などを開催している施設や事業者も増えています。こうした場は、伝える内容だけでなく、
介護家族同士の横のつながりをつくるという面でも、とても意義があります。
最近は、介護する当事者同士の支え合いも広がってきました(*)
専門職である介護職から、すぐにも役立つ介護の「ノウハウ」を教えてもらえることは、家族介護者にとって大きな助けになるはずです。しかし、「ノウハウ」ではない「こころ」の部分のサポートは、介護職だけではなかなか担いきれません。
そこで、
介護家族同士の支え合いが求められているのです。
介護家族という同じ立場だから響く言葉がある
在宅で身内の介護をしていると、「果たしてどこまで手をかければいいのか」という思いにとらわれることがあると言います。
食事や排泄、入浴のケアをすれば、要介護者の生活自体は成り立ちます。しかし、在宅での生活はそうしたケアだけで満たされるものではありません。
そばにいてほしい。話を聞いてほしい。外出に付き添ってほしい。買ってきてほしいものがある。体をさすってほしい――。
要介護者の様々な要望に、家族がすべて応えることはできません。
しかし、だからといって本人の要望を聞き流し、自分のために時間を使えば、介護家族は罪悪感にとらわれることもあります。要求の多い要介護者を、つい怒鳴ってしまい、自己嫌悪に陥ることもあります。
「なぜもっと優しくできないのだろう」「自分のことを優先させる自分は冷たいのではないか」……
自分を責める介護家族の気持ちを、より和らげることができるのは、仕事として介護を担う介護職より、同じ立場にある介護家族からの「そんなに頑張らなくていい」という言葉かもしれません。
介護家族同士が思いを共有できる、「こころ」のサポート
介護家族が集まる、あるつどいの場では、意思疎通が難しい状態の夫が嚥下(えんげ)困難となり、胃ろうを造設するかどうするかで悩む妻が、苦しい心情を打ち明けていました。
『夫は胃ろうを望まないかもしれない。でも、自分は夫にどんな姿であっても、もっと生きていてほしい。』
涙を流しながらそう語る妻の話を、その場にいた介護家族は深くうなずきながら聞き入っていました。
似た経験をした他の介護家族が自分の体験を話し、また一同、聞き入ります。
こうすればいい、というアドバイスではありません。それぞれが思いや体験をただ語り、つらい思いを共有するのです。涙を流していた妻は、最後は笑顔を見せ、帰って行きました。
これから要介護者は爆発的に増えていきます。介護サービスが不足し、介護職だけで介護を担うのは難しくなる時代が来るでしょう。
そのとき、せめて「こころ」の部分を、介護する家族同士で支え合える環境があってほしい。
介護職は、介護家族を直接サポートするだけでなく、これからは介護家族同士がつながれる場づくりに、より一層、取り組んでいけるとよいのではないかと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*介護者同士、共感し支え合う(毎日新聞 2020年1月10日)