生活援助の基準回数の設定は、介護サービス給付費抑制の一部?
2018年5月、全国の介護保険料が明らかになり、厚生労働省は全国平均で月5869円になったと発表しました。介護保険制度の開始初年度には全国平均で2911円だった介護保険料は、18年で2倍になったということです(*1)。
今後さらに介護保険料は値上がりし、2025年度には全国平均で8000円を超えると推計されています。高齢者の生活をますます圧迫しそうな金額です。
介護保険の財政は、介護保険料による収入と公費(国、都道府県、市町村の税金)で賄われています。歳入(国の収入)の6割は税収ですが、すでに2回延期された消費税の増税が、2019年10月に実施される予定です。
しかし、このところの財務省の様々な不祥事を見ると、すんなりと増税案が通るかどうかは不透明。税収が増えない可能性もありそうです。
税収が増えず、歳入を増やせないとしたら、歳出(国の支出)を減らす必要があります。
そうでなくても、高齢化の進展で自然に増えていく介護給付費などの社会保障費は歳出の約1/3を占めており、圧縮することが求められています。
介護給付費の圧縮には、負担増、給付抑制が避けられない。新聞各紙でも、そんな見出しが目立つようになりました(*2)。
給付抑制と考えられる施策としては、2018年度の介護保険制度改正では、訪問介護の生活援助への対応が挙げられます。
これは2018年10月から、基準以上の回数の生活援助を利用する場合は、ケアマネジャーがケアプランを市町村に届け出ることが義務づけられたというものです(*3)。基準回数は、要介護1で27回、要介護3で43回。この回数は、「全国平均利用回数+2標準偏差」を基に国が定めています。
標準偏差というのは聞き慣れない言葉ですが、統計上、「平均値+2標準偏差」の範囲内には約95%の人が含まれるとされています。
生活援助の利用が基準回数を超えるとして届け出られたケアプランは、地域ケア会議で検証することになっています。一律に制限がかかるわけではありませんが、抑制プレッシャーを感じるケアマネジャーは多いことでしょう。
介護保険制度の持続のために1人1人が今考えるべきこととは
介護保険料の値上がりや介護給付費の抑制といった報道が出ると、それに対応するように反対する声が上がります。
介護保険利用者をそばで見ている介護職には、自己負担比率が引き上げられ、給付が抑制されることで利用者に及ぶ影響が簡単に想像できるはず。反対したくなるのは当然とも言えます。
給付を抑制することで心身の状態が悪化し、かえって要介護度が高くなる。それによって、給付額が逆に増大するのではないか。そんな指摘もあります。
では、給付を抑制しないままだとどうなるでしょうか。
社会保障費は増大し続け、介護保険料は高騰を続けることになるでしょう。それでも介護保険制度は維持できるのでしょうか。
2018年度の国の予算のうち、歳出を見てみると、前述の通り社会保障費が約1/3を占めています。一方、歳入は3割弱が赤字国債です。赤字国債とは、国家財政の赤字を埋めるために発行される国債、つまり借金です。
今後は少子高齢化の進展で人口が減り、税収は減っていきます。一方、社会保障費は増えていくことが確実です。介護保険料を値上げしても限度があります。
では、介護保険料を徴収する対象を20歳以上など、拡大していけばよいのでしょうか。税収を上げるために消費税を20%、30%と引き上げていけばよいのでしょうか。2016年度末時点ですでに合計約555兆円となっている赤字国債の発行をさらに増やせばよいのでしょうか。
経済成長を優先させてきた日本は、今日まで財政の再建を先送りにしてきました。そのため、赤字国債を含む、「国の借金」の総額はすでに1000兆円を超えています。これは、国民1人当たり約852万円の借金と言われています。
さらに借金を増やしても、このまま国を維持できるのでしょうか?冷静に考えると不安になりますよね。
介護保険は持続したい。でも給付は抑制してほしくない。
日本の財政を考えたとき、こうした要望を訴えるだけでよいのでしょうか。
介護職には、お金の話を嫌う人、苦手だという人が少なくありません。しかし、この国で暮らしている以上、国の財政にも、介護保険財政にも、しっかり目を向ける必要があります。
この国は、「今」を乗り切れればそれでいいわけではありません。次の世代に良い形でバトンを渡していくために、どうするべきか。
痛みを伴うことになっても、将来にわたり介護保険を持続させるための現実的な対応を、国民全体で考える必要があるのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 介護保険料6.4%上昇、全国平均月5869円 65歳以上18~20年度(日本経済新聞 2018年5月21日)
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*2 給付抑制 避けられず 社会保障持続へ正念場、党超えた合意不可欠(日本経済新聞 2018年5月22日)
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*3 【居宅介護支援】生活援助が多いプラン、回数が正式決定 10月から届け出義務化(介護のニュースサイトJOINT 2018年5月8日)
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