介護サービスに関する申請の一部がオンライン化へ
介護保険制度開始以来、介護の現場は、ケアの知識・技術が格段にレベルアップされてきたのに対し、業務の効率化や省力化が進んでいません。
特に、作成すべき書類は、介護報酬の加算が多様化するのに従って増える一方。書類の作成に取られる時間は、業務全体の半分近くを占めるという声もあるほどです。
また、介護保険申請関係の書類については、家族の代行でケアマネジャー等が申請を行う際にも、煩雑で時間がかかることが課題となっています。現状では介護保険申請はオンライン申請ができず、書面でやりとりするしかないからです。
申請者サイドから見ると、申請後の進捗状況がわからず、いつ認定が下りるのか、自治体に問い合わせることになり、申請者も対応する自治体職員も時間を取られる状況となっています。
こうした状況を踏まえ、政府は要介護・要支援認定申請や介護保険証を紛失した際の手続きなどを、2018年度中にオンライン化する方針を固めました(*)。
利用者証明用電子証明書を搭載したマイナンバーカードがあれば利用できる「マイナポータル」で、関連情報の入手から申請までをワンストップでできるようにするとのことです。
「マイナポータル」とは、2017年から始まった政府が運営するオンラインサービスのこと。「マイナポータル」のサイト上では、以下のようなことができます。
・地方公共団体の子育てに関するサービスの検索や、児童手当等のオンライン申請
・行政機関などが持っている自分の特定個人情報の確認
・行政機関から個人にあったきめ細かなお知らせの確認
・マイナポータルからのお知らせを使った、ネットバンキング(ペイジー)やクレジットカードによる税金などの公金決済
介護関係の申請については、下記の手続きのオンライン化が検討されています。
1.要介護・要支援認定の申請
2.居宅(介護予防)サービス計画作成(変更)依頼の届出
3.負担割合証の再交付申請
4.被保険者証の再交付申請
5.高額介護(予防)サービス費の支給申請
6.介護保険負担限度額認定申請
7.居宅介護(介護予防)福祉用具購入費の支給申請
8.居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給申請
介護業界のオンライン化には課題も。本当に使われるシステムにできるのか
ただ、介護サービスに関する申請のオンライン化には、いくつか問題があります。
一つは、記事にもあるように「マイナポータル」の利用が進んでいないこと。
利用者証明用電子証明書を搭載したマイナンバーカードの交付率は、2018年6月時点でわずか11.5%にすぎません。このマイナンバーカードがもっと普及しないことには、オンライン申請が可能になったとしても利用されにくいことは容易に想像できます。
もう一つには、介護業界ではIT化が進んでいるとは言えないこと。
他業界から介護事業に参入した人たちが驚くのは、いまだにファクスでの連絡が主流だということ。
社内の連絡を全てメールで行う企業も増えている中、介護業界では一人ひとりにメールアドレスが付与されていない事業者が大多数。ファクス中心のやりとりだからなのか、メールが使えないからファクス中心になるのか、もはやわからない状況です。
また、介護業界では年配の従業員も多く、携帯電話やスマートフォンのメール、LINEは使いこなせても、パソコンは苦手という人は少なくありません。
IT化が進んでいない介護業界で、パソコンの使用に苦手意識を持っているような人たちが、「『マイナポータル』を使って」と言われても、積極的に使う気持ちになれるかどうか。結局、「紙ベースで申請した方が早い」ということにならないか懸念されます。
マイナンバー制度は、初期のシステム構築に2700億円、維持費に年300億円がかかっていると言われています。ここでまた新たなシステム導入に予算を割くのであれば、申請者にとっても介護事業者にとっても本当に便利になり、省力化につながるようなシステムにしてほしいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*政府 介護手続きネットで可能に 18年度中に実施へ(毎日新聞 2018年10月1日)