高齢者虐待が増加…相談・通報者の3割がケアマネジャー
養護者による、高齢者への虐待。
2006年度には虐待と判断されたのは1万2,569件でしたが、直近の調査によれば、2016年度には1万6,384件に増加しています。虐待ではないかという相談・通報件数でいえば、2006年度には1万8,390件だったものが、2016年度には2万7,940件と1万件近い増加です。
2016年度の調査結果から見ると、相談・通報した人のうち約3割はケアマネジャーでした。
高齢者への虐待には、訪問介護など他のサービス事業者も気づくことが多いことでしょう。おそらく、サービスチームで情報を共有し、チームを代表してケアマネジャーが相談・通報しているのではないかと思います。
では、相談・通報があったケースについて、どのような対応がされているのでしょうか。
相談・通報があると、96.3%のケースで「市町村の事実確認調査」が行われ、事実確認調査が行われなかったケースは3.7%にとどまっています。
調査を行っていない3.7%も、その後に調査が予定されていたり、明らかに虐待ではないケースだったりということのようです。
市町村が相談・通報を受けて行った事実確認調査としては、「訪問調査」が66.0%、「関係者からの情報収集」が29.6%、「立入調査」が0.6%行われています。
厚生労働省「平成28年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」のデータより筆者作成
立入調査まで行うケースは、ずいぶん少ないですね。
介護サービスを利用していれば、サービス事業者が利用者である高齢者と接する機会を持てるケースがほとんどですから、立入調査を行わなくても状況を把握しやすいケースが多いのかもしれません。
成年後見制度が「経済的虐待」の隠れ蓑になるケースも
高齢者に対する虐待は、「身体的虐待」「介護等放棄(ネグレクト)」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つに分類されています。
養護者からの虐待で最も多いのは「身体的虐待」です。そして、「心理的虐待」「介護等放棄」「経済的虐待」と続きます。
5つの分類の中で、「経済的虐待」は外部から確認しにくいと指摘されています(*)。そう考えると、把握されている件数は、実態を表していない可能性もあります。
厚生労働省「平成28年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」のデータより筆者作成
「経済的虐待」の具体的内容としては下記のようなものがあります。確かに外部からでは把握しにくい、確認しにくい内容ばかりです。
経済的虐待の具体的内容
・年金の取り上げ
・預貯金の取り上げ
・不動産・利子・配当等の収入の取り上げ
・必要な費用の不払い
・日常的な金銭を渡さない・使わせない
・預貯金・カード等の不当な使い込み
・預貯金・カード等の不当な支払強要
・不動産・有価証券などの無断売却
・その他
(厚生労働省「平成28年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」より引用)
「経済的虐待」への対応策として、成年後見制度の利用があります。
しかし実は、成年後見制度が経済的虐待の隠れ蓑にされることもあると指摘する、医療・介護関係者もいます。
「経済的虐待」が発覚したあとに、高齢者の成年後見制度利用の申立を行えば、虐待の加害家族を、家庭裁判所が後見人として選任することはありません。
しかし、判断力が低下した高齢者の財産を密かに搾取することを意図して、家族が成年後見制度利用の申立を行えば、そうした意図を阻止することは難しくなります。搾取をもくろむ家族自身、あるいは家族の側に立つ専門職が後見人として選任され、経済的虐待が発覚することなく行われてしまう可能性があるからです。
虐待とまでは言えなくても、意思表示が難しくなった被後見人である高齢者の処遇を、家族が自分たちの都合のいいように決めてしまう例は決して少なくありません。
年1回の家庭裁判所への報告など、チェックの仕組みはあります。しかし、それも万全ではありません。記事でも、ケアマネジャーが経済的虐待に気づいた例が紹介されていますが、やはり、経済的虐待を含む高齢者への虐待に気づき、介入するチャンスをつくることができる可能性が大きいのは、介護職ではないでしょうか。
高齢者の近くで生活を支え、その声に耳を傾け、異変を感じ取ることができる。
そんな介護職の力が、高齢者の権利擁護において期待されていると思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*親の預金を勝手に… 高齢者への経済的虐待、どう防ぐ(日本経済新聞 2019年2月15日)