他業界に比べて低いことが指摘され続けている介護職の給料。そんな中、ようやく今年度は、給与の引き上げに踏み切る大手介護サービス事業者が多数あるようです。
2015年3月31日の日本経済新聞によれば、ニチイ学館やベネッセスタイルケアなど主要12社が、約10万人の給料を引き上げる予定にしているとのことです(*1)。
この給料引き上げは、前回(平成24年度)の介護報酬改定から設けられた「介護職員処遇改善加算」を元手とするもの。この加算は、一定の要件を満たせば介護報酬が1.1%~8.6%増額されるというものです。厚生労働省としては、この加算によって介護職員の月給を1人当たり1万2000円引き上げられるとしています。
介護職の処遇を良くする国の施策が、ようやく現場に届いた
要件には、増額分に見合うだけの処遇改善を行うことが盛り込まれています。つまり、加算を算定する場合は、必ず受けとった加算額以上に職員の処遇を良くしなくてはなりません。そのため、今回の大手事業者の処遇改善は、1万2000円を上回る額の給料引き上げや介護職以外の職種も含めているところもあるとのこと。介護職の処遇を良くしていこうという国の施策がようやく現場に届いたかっこうです。
処遇改善加算については、いつ打ち切られるか、不安を訴える介護事業者が多く、基本給の引き上げには慎重でした。基本給を引き上げたあとで加算が打ち切られたら、それ以降は事業者がそれぞれの努力で引き上げ分を支給していくことになるからです。そのために、基本給の引き上げは少額に留め、福利厚生の充実や一時金の形で職員に還元する方法が多く見られていました。
もともと介護保険サービスは、介護報酬改定によって収益に大きな影響が出る事業です。過去の報酬改定を見てみると、収益の上がっているサービスほど「適正化」の名のもと、次の改定で報酬が引き下げられています。今回の特別養護老人ホームや小規模型デイサービスがそのいい例。事業者にすれば、報酬が引き下げられた場合を考慮し、収益が上がっているからといって簡単に基本給を引き上げにくいという事情がありました。
しかし今回は、介護職不足が深刻化し、少しずつでも処遇を高めていかなくては人材確保ができないという危機感が働いたようです。
介護保険外のサービスで、収益を確保する企業も
では、介護サービスでは、高い給与水準の実現は難しいのでしょうか?
そうとは限りません。ある介護サービス事業者は、事業を介護保険外のサービスに特化。ヘルパーの特技や資格、顔写真などのプロフィールをホームページ上に公開し、指名もOKとしてサービスを引き受けています。指名を受けたヘルパーは、もともと介護保険サービスのヘルパーより高い水準の時給なのが、さらに2割増になるシステム。
提供するサービスは介護保険では行えない、観劇、外食、デパートへの買い物など趣味での外出の介助、旅行の付き添い介助、夜間の泊まりでの介護など。制度の枠に縛られないため、利用者にとっても使い勝手のいいサービスとなっています。
この事業者だけでなく、介護保険外のサービスを提供している介護サービス事業者は他にもあります。また、高齢者だけでなく、障害者や子どものケアも含め、訪問サービスを提供している事業者もあります。介護サービス事業者が、介護保険の報酬改定に左右されない収益力を付けてためには、こうした介護保険外サービスに力を入れていく必要があるのかもしれません。
しかし、こうした介護保険外のサービスの利用料は、1時間3000円前後。誰でも気軽に使える金額、というわけにはいきません。ニーズはいくらでもありそうな介護保険外サービスが、意外に広がっていかないのは、そうしたところに課題があるのかもしれません。
利用者も介護職もどちらもが満足し、積極的に使いたくなるサービス、事業の開発が待たれます。
<文:宮下公美子>
*1 介護大手、相次ぎ賃上げ 深刻な人手不足に対処(日本経済新聞 2015年3月31日)