介護未経験のパート職員を採用。介護職へステップアップした例も
介護人材の不足が深刻化する中、無資格・未経験の助手を採用し、資格や経験がなくてもできる仕事を担ってもらう動きが出てきています(*)。
そうすることで、資格を持つ介護職は、本来の仕事に専念でき、より質の高い介護サービスを提供できるというわけです。
記事では、「介護ではアルバイトの募集が中心」とあり、一人前に育成することを見越した正社員採用をしているITや建設などの技術職とは違うかのような書かれ方をしています。
実際、介護業界では、無資格者をすぐに正職員で採用することは多くないかもしれません。しかし、だからといって、無資格の職員を一人前に育成していないわけではありません。
介護業界にも、無資格・未経験・非常勤職員でスタートし、資格を取って正職員になる人もいます。
無資格の職員を採用・育成することで、正職員の介護職の人材確保に成功した、ある介護施設の例をご紹介しましょう。
この介護施設では、無資格・未経験の短時間パートの職員を多数雇用しています。介護資格がなくても取り組める、シーツ交換やフロア清掃などを担ってもらうためです。
この施設では、そうして短時間パートで採用された職員たちが、勤務を続ける中で介護職としてのステップアップを目指すようになってきたといいます。
短時間パートの職員は、勤務しながら介護職の仕事を見て、自分もできるだろうか、やってみたいという気持ちになったのだそうです。
パート勤務をしていれば、職場環境や職員同士の関係性の善し悪しはよくわかります。
この介護施設は、ここで働いてみたいと思える環境だったということでしょう。
短時間パートから1日勤務のパートに変わり、そこからさらに正職員へ。この施設では、そんな流れができてきたといいます。
介護職に必要なのは意欲と能力。雇用形態に関わらない育成システムを
この職場で働いてみたい。上記の介護施設でパート職員をそんな気持ちにさせたのは、パート職員も正職員も分け隔てなく、やる気のある人に仕事を任せていく組織風土だったということもあります。
この施設で、職員の育成体制を、施設長をはじめとした正職員と共に考えていく役割を担っていたのは、ベテランのパート職員。能力はあっても、時間的な自由さがほしいという理由で正職員になることは望まず、長年、パート職員として勤務している人です。
意欲、能力、人柄を周囲が認めていることから、職員の育成システムの構築という重要な役割を、パート職員ながら正職員と共に担っていたそうです。
正規職員、非正規職員という立場の違いを、本人の能力の違いのように考える職場もあります。しかし、この施設は違いました。
公平公正な風土も、短時間パートからスタートした人にとっては、働きやすさを感じられたことでしょう。自分が望めば様々なことに取り組んでいけるという希望も持てます。そんなところも魅力的に映ったのかもしれません。
この施設では、以前、採用の第一条件を、「正職員としてフルタイムで働ける人」としていました。
しかし、丁寧な研修を行って育成していてもなかなか職員が定着しなかったそうです。介護の仕事にも職場にも慣れない中でのフルタイム勤務は、入職者にとって負荷が大きかったのです。
また、施設サイドからいえば、人物本位で見れば採用したい人も、フルタイムで勤務できないという理由で採用を見送ることがしばしばあったとのこと。
そこで、採用の方針を転換。人物本位での短時間パート職員の採用に踏み切ったのです。結果的に、これが正職員確保にもつながりました。
介護職の人材確保に苦労している介護の職場は、この施設のように、採用のあり方を一度見直してみてはどうでしょうか。無資格・未経験のパート職員を短時間勤務で雇用し、時間をかけて意欲と能力を引き出す。
しっかりとした育成体制を整えることで、長く働ける介護人材を確保していくのも一つの方法かもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*人手不足「助手」で補う 介護や建設、未経験者も募集(日本経済新聞 2018年5月8日)