「共生型サービス」の指定を受ける介護保険事業所が増えていない
障害を持つ人が利用するのは「障害福祉サービス」。
65歳以上の高齢者が利用するのは「介護保険サービス」。
「障害福祉サービス」と「介護保険サービス」の両方を提供する事業所は、これまで少数でした。
そのため、障害福祉サービス利用者は、65歳になると多くの場合、それまで使っていた障害福祉サービス事業所から介護保険サービスの事業所に変更しなくてはなりませんでした。
2017年度の介護保険法改正で、介護保険サービスと障害福祉サービスの一部が相互乗り入れした「共生型サービス」が位置づけられたのは、65歳を境にしたサービス事業所切り替えによる、障害福祉サービス利用者の不利益を軽減するためでした。
どちらかで指定を受けていれば、もう一方のサービスでも「見なし」で指定が受けられるようになり、障害を持つ共生型サービス利用者は、高齢になっても同じ事業所からサービスを受けられるようになりました。対象となったサービスは、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどです。
しかし、介護保険法改正後、約2年がたとうとしていますが、
障害福祉サービスを手がける介護保険事業所はあまり増えていません。なぜでしょうか。
「障害福祉サービスについて知らないから不安がある」
障害福祉サービスを提供する介護保険事業所が増えない理由の1つは、障害を持つ人へのサービス提供経験のなさから、
「なんとなく難しそうで不安」と二の足を踏む事業者が多いからです。
確かに、高齢者を対象にした介護保険サービスとは違い、年齢も疾患の種類も幅広い障害福祉サービスは、高齢者とは異なる配慮や対応が必要な場合があります。
精神疾患を持つ人へのサービス提供には、うつ病などの気分障害や統合失調症などの精神疾患に関する基本的な知識は必要でしょう。
しかし、実際に高齢者と障害者の双方にサービス提供をしている事業者は、求められる配慮などに大きな違いはないといいます。
あえて言えば、障害を持つ人へのサービス提供では、
「自立支援」の意識がより強く求められるとのこと。
例えばホームヘルプサービスで、うつ病で、生きる意欲が低下している人に家事支援のサービスに入るとします。声をかけながら、掃除や調理などの身の回りのことに一緒に取り組む。すると、少しずつ意欲を取り戻し、病気のためにできなくなっていいたことが、かつてのようにできるようになる。そして、サービスが終了になる。
そんな、高齢者へのサービス提供ではあまり味わえない、「利用者の成長」や「達成感」を、障害福祉サービスでは感じられるという人もいます。
障害のホームヘルプサービスでは、障害を持つ同世代の利用者と、映画や音楽など、共通する趣味のことを話しながらサービス提供をするのが楽しいという、若いホームヘルパーの人もいます。また、外出介助の「移動支援」サービスで1日がかりで出かけたり、3時間の家事援助でゆっくりとサービス提供したり、介護保険サービスでは設定されていないサービス提供が、自分には向いているという人もいます。
高齢者とは違う利用者との関わりが、サービス提供者にとって好ましく感じられる場合もあるのです。
一方で、障害福祉サービスの提供に二の足を踏むもう1つの理由として、
介護保険サービスとは異なる書類を作成しなくてはならない煩雑さを挙げる事業者もいます。
確かに、障害福祉サービスの提供では、介護保険サービスとは異なる書類の作成が必要です。
しかし、介護保険サービスとは違い、
障害福祉サービスではサービス提供実績の報告の必要はありません。最初のサービス提供計画に基づいて報酬が支払われるからです。このことを承知していない事業者も多いのではないでしょうか。
共生型サービスで、高齢者も障害者も支えられる「地域共生社会」の実現へ
今、介護保険サービス専業のサービス事業者で、障害福祉サービスの指定を受けているのは、介護保険だけではサービス提供時間が足りない、従来からの高齢の利用者への配慮からというケースが多いようです。
つまり、毎月の支給限度額をオーバーする利用者に、障害者手帳を取得してもらい、足りない分を障害福祉サービスの提供でカバーする。そのために、障害福祉サービスの指定を受けているケースが多いのです。
いわば、サービス提供先が限定的なわけですが、そこから少しずつ障害福祉サービスの枠を広げていっている事業者もあります。
障害福祉サービスを専門に提供している、ある事業者は、障害福祉サービスは圧倒的に不足しているので、そうした入り口からでも、少しずつ提供してくれる事業者が増えていくことを期待したいと語っています。
地域共生社会の実現のため、高齢者も障害者も児童も、同じように支えられるサービス事業者が増えていくことが期待されます。
<文:介護福祉ライター/社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>