超高齢社会を迎え、“大介護時代”になるといわれているのに、長く問題となっている介護士不足。一向に解消しそうにありません。
今回、政府は「外国人技能実習制度」に介護分野での受け入れも加えました。外国人介護士受入れを、人手不足解消の一つの解決策にしようとしているのでしょうか。
外国人技能実習制度というのは、日本の技術を学びたいという外国人実習生を受け入れ、日本で働きながら技術を習得してもらい、帰国後その技術を母国の発展に生かしてもらう制度。
これまでは農業、漁業、建設など68職種で、中国やフィリピンなどから多数の外国人実習生を受け入れてきました(*1)。
しかし、この制度の実態は、「人手不足の解消」だといわれています。2015年3月6日、毎日新聞でも人手不足の被災3県で、震災時より200人以上も多くの外国人実習生が受け入れられている実態が報道されました(*2)。
求人しても日本人が集まらない分野の仕事を外国人実習生に委ねているというのです。
人手不足解消ではなく「国際交流」「国際貢献」?
外国人介護士については、これまで
EPA(経済連携協定)の枠組みの中での受入れが行われてきました。これも名目上は、「国際交流」としての受け入れ。表向きは人材不足解消のための受け入れではない、と政府は言っています。
もともと日本は介護分野にかかわらず外国人労働者の受け入れには非常に消極的です。そのため、EPAでの受け入れも、4年間の滞在期間中に介護福祉士の国家試験に合格しないと日本での就労を続けられないという厳しいハードルを設けました(不合格の場合は1年延長可)。
日常会話程度の日本語がようやく可能なインドネシア人やフィリピン人の介護士が、日本人でも合格率65%弱の介護福祉士試験に合格する…
少し想像するだけで、難しいことだというのがすぐわかりますよね。しかも、来日4年以内という期限つきです。来日後に実務経験3年を積み、平成23年から25年に受験した外国人介護士の平均合格率が40%弱なのは、大健闘と言えます(*3)。
今回の外国人技能実習制度での受け入れも、表向きは「国際貢献」とされています。受け入れ条件はこれから詰めていくこととなりますが、これまでの技能実習制度では、母国に持ち帰れる技術を習得する機会も与えられないまま、安い労働力として働かされていたケースが問題になっています。
今後の介護を誰に委ねるのか、決める時期では?
外国人技能実習制度において、受け入れ先に指導や助言を与える立場にある「国際研修協力機構」は、受入先の事業体に問題があったとしても「罰則」を与える法的権限を持っていません。そもそも、すべての事業体の受け入れ体制をしっかり監視するだけの体制も確保されていないのが実状。
そこで今回、制度の見直しを検討していた政府の有識者懇談会から、新たな監督機関の設置が提案されました。
EPAでは、受け入れ施設に研修費用等として外国人介護士1人あたり100万円を超える金銭的負担や、国家試験受験支援体制の整備など、安易な労働力確保の手段として使われないような高いハードルを設けていました。それがこの制度での受け入れが広がらなかった一因ともなりましたが、一方で、来日した外国人介護士の処遇水準は守られました。
今後の外国人技能実習制度ではどのような受け入れ条件を設けるのか?注目されるところですね。
さらに気になるのは、この中途半端な外国人介護士の受け入れ方をいつまで続けるのか?という点。
2025年には30万人不足するといわれている介護士。外国人の力に頼ってカバーするのか、資格があるのに介護の仕事をしていない“潜在”介護福祉士などを介護業界に呼び戻すのか、介護ロボットを本格導入するのか…。
どの対策を取るにしても、もう残された時間はあまりありません。外国人介護士の受け入れについても、本音(=人材確保)で体制を整える時期に来ているのではないでしょうか。
<文:宮下公美子>
*1 第1回外国人介護人材受入れの在り方 に関する検討会(平成26年10月30日) 資料2 <※PDFファイル>
*2 被災3県:外国人実習生4300人超(平成27年3月6日・毎日新聞朝刊)
*3 経済連携協定に基づく受け入れの枠組(厚生労働省) <※PDFファイル>