働くシニアが増える今、介護の現場での活躍にも期待
2025年には約38万人不足すると推計されている介護人材。2019年4月からは、外国人技能実習制度による外国人材の受け入れも始まりました。
外国人材に加え、最近、増えているのは
シニア人材の介護現場での活躍です(*)。
介護実務ではなく、食事の配膳や下膳、レクリエーションの手伝いなど、介護周辺業務を担います。
シニア世代が介護助手として活躍!三重県での実施例とは
高齢者が介護助手として介護の現場で働く取り組みは、実は、2016年に三重県でモデル事業として実施されています。
このモデル事業での狙いは以下の3つでした。
1.介護人材の確保
元気高齢者を介護助手として受け入れることで、介護職が本来の介護業務に注力できるようにし、より専門性を発揮できること
2.高齢者の就労先の確保
高齢者が、住み慣れた地域で、働きたい時間に働き、年金の足しにできること
3.介護予防
働きながら介護のことを学び、自分自身の介護予防にもなること
シニア人材の介護助手としての就労は、
働き手を求める介護業界と
就労先を求める高齢者の双方にとってメリットがあるだけでなく、シニア本人にとっての
「介護予防」になるところも大きなポイントです。
三重県で実施されたシニア介護助手の業務内容は、
(1)認知症を持つ人への対応や見守りなど、一定程度の介護の専門的知識や技術が必要な業務
(2)ADL(日常生活動作)に応じたベッドメイク、配膳など、短期間の研修を受ければ取り組める、やや専門的知識が必要な業務
(3)掃除や片付けなど、専門的知識等がほとんど必要ない業務
の3つに分かれていました。
また、働き方としては、週2~3日、あるいは早朝、午前のみ、午後のみなど、本人の都合と体力に合わせた働き方を用意したそうです。
介護業務に必要なスキルを明確化
介護助手の導入に当たっては、上記のような3パターンの業務を介護職の通常業務から切り出していく作業が必要になります。
実は、受け入れ法人にとってはこれがなかなか大変なこと。
三重県のモデル事業と同様に、周辺業務を担うパート職員採用を行ったある社会福祉法人では、職員の業務をすべて書き出し、それぞれの業務に必要なスキルを洗い出していったそうです。
全業務に必要なスキルを書き出して、
全くの未経験でもできる業務から、
リーダークラスの職員が担当する業務まで、職員の業務を「階層」に分類。
そうすることで、最も基本的な階層の仕事に、シニアを含む、未経験や短時間のパート職員を導入できるようになりました。
また、その過程で、それぞれの階層ごとに求められるスキルを明確化することができ、上の階層にステップアップするための教育体制も整備されるようになりました。
人事や経理などのスキルを持つ人材の再就職にも期待
シニア人材の介護業界への導入は、実は介護助手だけでなく、事務方の仕事での導入も模索されています。企業で経理や人事を担当し、リタイアした人材に、法人の経理や人事を担ってもらおうという取り組みです。
これは2018年度に経済産業省の助成事業として実施されました。
経理や人事などの専門性を持つ人材は、介護業界でも当然、必要とされています。
しかし、現状では、専任の職員を置いている法人は多くなく、施設長などが兼任し、担っているところが多いようです。
そのため、経理や人事などの業務については、介護業務以上に切り出して新たな人材に渡していくのが難しいのが実態です。
介護業界は小規模な法人も多く、一法人では雇用が難しいケースも少なくありません。
そこで、複数の法人で事業組合を組織し、共同で人材を雇用する方法や、業務委託という形で仕事を依頼していく方法などが検討されています。
介護の周辺業務や、こうした間接業務を切り離し、手放していくことができれば、職員は本来業務に注力できます。これとは少し異なる業務分担ですが、夜勤専任職員を雇用し、原則として、正職員は夜勤をしない体制をとっている法人もあります。
業務を整理し、より働きやすい体制を整えること。
そのために、シニアや子育て中の女性、障害を持つ人など、ユニバーサル採用を進めていくこと。
そうすることで、介護業界には新しい風が入り、変わっていくかもしれません。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*70歳からの介護現場挑戦(毎日新聞 2019年6月7日)