介護福祉士の離職率低下、呼び戻しへ
景気が上向きになり、失業率が低下している中、有効求人倍率は、2010(平成22)年から上昇が続いています。
2016(平成28)年は全職業の有効求人倍率が1.36。一方、介護分野の有効求人倍率は3.02と、ここ3年、全職業の有効求人倍率をはるかに上回るペースで上昇し続けています。
*社会保障審議会 介護給付費分科会 第145回より<クリックで拡大>
介護人材不足への対策として、政府は新たな政策パッケージの中に、勤続10年以上の介護福祉士に対して月額平均8万円相当の賃上げを行う方針を盛り込みました。
2017年12月、これが閣議決定されています(*1、2)。ずいぶん思い切った施策ですね。
2016年の「賃金構造基本統計調査」では、施設介護職員の平均月給(ボーナスを除く。非正規含む)は、21万5200円(*3)。8万円増えれば、全産業平均の30万4000円に近づきます。
これで、離職率の引き下げや、潜在介護福祉士の呼び戻しにつながるでしょうか。
実はいろいろある介護人材確保の取り組み
実は、介護人材の育成・確保に関しては、これまでにも下記のような取り組み等が行われていました。
【介護職員の処遇改善】
介護職員処遇改善加算の拡充については、2017年度予算で289億円が確保されています。
【潜在介護人材の呼び戻し】
いったん仕事を離れた介護人材への再就職準備金の貸付制度は、1年以上介護職として勤務した経験がある人に対して、1人1回20万円の貸し付けがあり、介護職として2年間勤務すると返済が免除されます。
【新規参入促進】
介護福祉士を目指す学生への奨学金制度としては、入学準備金、就職準備金を各20万円、学費として月額5万円を2年間など、上限で合計約264万円の貸し付けを受けることができます。しかも5年間、介護職として勤務すれば返済が免除されます。
ボランティアを行う中高年齢者(50~64歳)に対しては、都道府県福祉人材センターを通じて就労し、働きながら介護職員初任者研修の修了を目指す人に受講費等の助成を行っています。
【離職防止・定着促進、生産性向上】
たとえば、職場定着支援助成金などです。
事業者が、職務、職責、職能、資格、勤続年数等に応じて階層的に定める賃金制度を整備した場合に50万円を助成。1年後に離職率の目標を達成した場合に57万円、3年後に離職率が上昇しなかった場合に85.5万円がさらに助成されます。
地域ぐるみで介護人材不足解消への取り組みを
こうして改めて見てみると、いろいろな施策が打ち出されてます。果たして、どれぐらいの事業所が助成を申請しているのでしょうか。
「職場定着支援助成金」は、資格手当を付けたいと思っても原資がないという事業所に向けた施策と思われます。しかし助成されるのは、初年度50万円以外に、条件を達成しなければ受け取れない1年後、3年後の計3回のみ。
資格手当を5000円とすれば、50万円で支払える対象は100人。しかも最高3回しか原資が確保されず、それ以降は事業所の自助努力で支払っていかなくてはなりません。
なかなか積極的に助成申請を行おうという気持ちになれないかもしれません。
また、介護職を目指す学生に対する助成は、高校生等に対して学校などから情報提供がないと、活用しにくいように思います。今の高校は介護職を志望している生徒に対して、賃金や労働条件がよくないといって志望変更を促すケースが多いと聞きます。
助成金以前に、生徒だけでなく先生の、介護の仕事への認識を変えていく働きかけが必要だと感じます。こうした部分で、保険者と介護事業者が連携できるといいのですが。
少し違いますが、東京・千代田区は介護人材確保のため、区内の専門学校2校と7つの介護事業所の間をつなぐ役割を果たしています(*4)。
事業者に介護実習の受入を要請し、専門学校には就職先として区内の事業所を検討してもらうという取り組みです。
たとえば、地域の介護事業所が、小中高校で介護の仕事を紹介するイベントを開催する。総合学習の時間に、介護事業所でボランティア体験をしてもらう。介護事業所と保険者、教育委員会等が連携して、そんなことを実現できないものでしょうか。
そうした地道な活動で、介護の仕事に目を向けてくれる人を増やしていく方が、長い目で見れば助成金より効果があるように思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 介福士の8万円賃上げ、消費増税に伴う報酬改定で対応 公費1000億円投入 政府方針(JOINT 2017年12月7日)
*2 少子高齢化対策の2兆円パッケージ、閣議決定(朝日新聞デジタル 2017年12月8日)
*3 介護職員の月給は21.5万円 全産業の平均を約9万円下回る 厚労省賃金統計(JOINT 2017年2月23日)
*4 介護人材確保へ千代田区が協定(日本経済新聞 2017年11月21日)