新型コロナ感染者が増加!介護施設は大丈夫?
2020年7月22日現在、全国での新型コロナウイルスの1日の感染者数は800人に迫り、感染拡大の「第2波」の到来と言われ始めています。
7月22日から政府主導の「Go To トラベルキャンペーン」も始まり、感染者数は今後ますます増える恐れがあります。
各地の高齢者施設でも集団感染が相次いでいます。介護関係者も、対岸の火事と思わず、職員、入所者、利用者の感染発生に一段と備えることが必要になります。
7月半ば、新聞のネット記事に、4月に富山県の介護老人保健施設で発生した集団感染に、外部から医療サポートに入った医師のレポートが掲載されました(*)。
非常に示唆に富んだ内容です。何が起こったのかを紹介しつつ、
高齢者施設で必要な対応について、改めて考えてみます。
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介護老人保健施設でのクラスター発生から収束まで
記事によれば、最初の発熱者発生から、施設内に新型コロナウイルス陽性者がいなくなるまでにかかったのは、
約1ヶ月半。
外部から医師がサポートに入ったときには、51人の入所者を、施設長や事務員も含めた5人が昼夜交代でケアしているという、極めて厳しい状況でした。着替えもおむつ交換も食事介助も、十分にできていなかったといいます。
記事によると、この施設の感染の経過は下記の通りです。
【4月3日:最初の発熱者】 施設で最初の発熱者発生
【4月10日(発生から1週間後)】 発熱者は10人に
【日にち記載なし】 体調不良で搬送された入所者は、尿路感染症、普通の肺炎との診断。
このため、発熱者について、新型コロナウイルスの感染を検討するのが遅れた
【4月17日:最初の陽性判明】 PCR検査で80代女性の新型コロナウイルス陽性が判明。同日、この女性と同室の90代女性が搬送先で死亡
【4月18日】 死亡した90代女性は陽性と判明。富山県で最初の新型コロナウイルスによる死者となる。同日、入所者66人中20人以上に発熱あり
【4月19~22日】 市保健所が全入所者・職員にPCR検査を実施
【4月25日】 外部から医師が応援に入る。この時点で、入所者15人が搬送済み。
職員の大半は濃厚接触者で出勤停止となり、施設長、看護師2人、介護職、事務員の5人で、入所者51人を昼夜交代でケア
【5月21日】 陽性者はいなくなった。ここまでに入所者41人、職員18人が感染。入所者15人が死亡
『新型コロナの感染拡大はあっという間』と心得よ
4月25日にサポ-トに入った医師は、まず入所者の病歴などを確認し、医学的診断で重症度を判定。6人の入所者を搬送する必要があると判断しました。しかし、そのうち2名は搬送が間に合わず、施設で亡くなっています。
4月頃、マスコミ報道では、『少し前まで普通に話していた人が、急激に悪化してあっという間に心肺停止になる』と言われていました。まさにそうした状況だったのかもしれません。
医師はその後、陽性者と陰性者をフロアで分けるゾーニングを実施しています。完了したのは、最初に陽性者が判明してから12日後のこと。これは、
PCR検査の結果が出るまで時間がかかったこと、人手が足りず、
フロア移動が難しかったことが、時間を要した理由として挙げられています。
医師がゾーニングするまでは、ベッドとベッドの間隔を開ける程度が精一杯だったとのこと。職員5人では打つ手がなかったことと思います。
このレポートから、感染はあっという間に拡大し、そうなると施設職員だけでの対応が困難になることを感じます。感染者数が増大している地域においては、発熱した入所者には、すぐにも新型コロナウイルス感染を前提とした対応をとる必要があります。
新型コロナウイルス対策は「事前準備」が重要
残念ながら、PCR検査体制は、今も十分整っているとは言えないことが指摘されています。すぐに検査が受けられないのであれば、発熱者はすべて大事を取って隔離することが重要です。
多床室の施設等では、すべての発熱者を隔離するという対応が容易ではないこともあると思います。しかし感染が拡大すれば、はるかに困難な状況になることは間違いありません。
あらゆる知恵を絞り、
隔離できる体制を整える。
同時に、
ケアにあたる職員は人数を絞る。
そして、防護服等を使用し、
感染予防に努める。
そうした対応を行っていただきたいと思います。
もちろんそれ以前に、新型コロナウイルス感染が起こりうることを想定し、
感染者が発生した際にどのような感染拡大予防対策体制が必要か、どのような感染予防対策用品が必要かを、保健所等に確認しておくことが重要なのはいうまでもありません。
感染力の強いこのウイルスと、備え無しに戦うことはとてもできないと感じます。
入所者を元気にした『介護の力』
新型コロナ集団感染が発生したこの施設では、5月になり、外部から介護職の応援派遣もあって、徐々に介護体制を取り戻していきました。
着替え、清拭で入所者の表情が明るくなり、食事も進んで元気になっていったとのこと。「介護の力はすごいと実感した」という医師の話が印象的です。
また、陽性者の家族に施設での看取りを提案したという話にも、考えさせられました。
重症化した入所者を病院に搬送すれば、病院では感染予防の徹底により面会することができないまま亡くなる可能性があります。一方、施設での看取りを家族が選択した陽性の入所者は、病院とは違い、
面会の機会をつくれたとのこと。
この施設での陽性者の看取りは、逼迫した医療体制のもとでの消極的な選択でした。
しかし、病院で陽性のまま亡くなると、遺体との対面も難しくなります。施設で最期を迎えたことは、結果的には、家族にとってせめてもの救いとなる対応だったかもしれません。
新型コロナ発生に備えて外部支援を受けられる体制を
この医師のレポートから、高齢者施設で新型コロナウイルスの集団感染が発生したら、医療のサポートなしではそれ以上の感染拡大を抑える適切な対応が難しいことを感じます。
一方で、集団感染が発生した介護の場で介護職が無力かというと、そうではないことも感じました。医療職との役割分担により、
介護職が本来持っている力は十分発揮できるのです。
日々の営みを地道に支える介護の力の素晴らしさは、こうした状況下では一段と感じられるのかもしれません。
介護職がそうした力を発揮するため、感染が発生したら、すぐにも外部の医療職の助言やサポートが受けられる体制の整備が重要です。
そして集団感染が発生した場合には、外部の介護職のサポートが必須となります。
それは一施設だけで実現するのは難しいことでしょう。地域の専門職団体や施設、行政などと連携し、体制整備を進めていけるよう、ぜひ施設内で話し合いを進めてほしいと思います。
『ウィズ・コロナ』の時代はまだ続きます。
備えなくして、このウイルスに感染したときの適切な対応は難しい。その共通認識を持つことが重要だと感じます。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>
*クラスター発生 その時 施設内は(毎日新聞 医療プレミア 2020年7月13日)