2021年介護報酬改定では、データを活用する科学的介護の推進をはじめ、介護現場のICT化、介護ロボットの導入による業務効率化への評価を充実させ、サービス全体でのテクノロジー化を促進する改定となった。これに対応するため国の支援も本格化する。介護現場の「どの機器が良いかわからない」「活用できそうにない」といった懐疑的な見方や、手探りで製品開発をするメーカーに実証フィールドやシーズとニーズのマッチング機会を与えるため、昨年7月より、厚生労働省は双方の仲立ちとなるプラットフォーム構築を全国各地に展開。機器等の購入支援として、次年度以降の助成金の充実のほか、2月19日に厚労省は「地域医療介護総合確保基金の20年度予算を、21年度(過年度)実施することを認める」との方針を示すなど、機動的な補助金活用をはかる。介護現場での活用事例を含めて特集する。
「開発」 「導入・活用」 を全方位支援
生産性向上と業務負担軽減をしつつ、介護の質を向上するために、21年度介護報酬改定では介護現場のICT化を推奨する見直しが行われた。
具体的には ▽データベース「LIFE」へのデータ提出とフィードバック活用を要件とする科学的介護の推進への加算の新設 ▽見守り機器とインカム利活用による特養の夜勤要件の一層の緩和等 ▽機器活用による遠隔での服薬指導の評価 ▽運営基準で求められる各種会議等のテレビ電話開催――など。
しかし、19年の「令和元年度介護労働実態調査」では介護ロボットについて見守り、移乗支援、コミュニケーションロボットなど「いずれも導入していない事業所」が75.6にのぼるなど、導入に踏み込めない介護現場の声が多い。メーカー側も介護ロボットの開発や実証に関するニーズとシーズのマッチングの場を求めていた。
全国各地で相談、機器の貸出
国は昨年7月より全国11カ所(北海道、青森、岩手、埼玉、神奈川、富山、愛知、兵庫、徳島、広島、福岡。21年2月時点)に相談窓口を設置。▽体験型展示場 ▽試用貸出 ▽研修――などの業務とともに、ニーズ・シーズ連携協調協議会の運営などを実施。
相談に専門のアドバイザーが協力し、課題発見シートや現場視察などを通して、いま困っている課題の発見、最適な機器の導入・活用の助言を行う。ウェブによる相談にも対応している。
また、試用貸出の対象機器は ▽移乗支援 ▽排泄支援 ▽見守り ▽コミュニケーション――の4分野33機器。研修では効果的な導入・活用方法の解説や、現場の課題を見える化するためのワークショップなどを行う。
解析・実証のできるリビングラボ
また、全国6カ所にリビングラボを整備し、介護ロボットやICT機器導入に向けた実証などを行っている。
主にメーカーを対象としたリビングラボは介護現場を再現し、様々な解析機器も取りそろえる。効果検証・改善を目的に東京都(善光会サンタフェ総合研究所、SOMPOケアFuture Care Lab in Japn)、千葉県(産業技術総合研究所)、愛知県(藤田医科大学、国立長寿医療研究センター)、福岡県(九州工業大学)の6カ所に開設されている。
長寿研では坂道や横揺れを再現できるトレッドミルやモーションセンサーなどを整備しており、九州工業大学では筋骨格モデルを用いた筋活動推定や大型の3Dプリンタなどを整備している。ラボによって分析機器に特徴があり、それぞれシーズやニーズに合わせた実証ができる。
いずれも介護施設や病院とを併設・提携しており、現場からのアドバイスを受けての改善、導入効果のデータ収集、エビデンスの蓄積が行いやすい。
介護ロボット・ICT「相乗効果」を重点支援
介護ロボットとして介護施設に導入され始めた「見守りセンサー」と、介護職員間の業務連絡や作業効率を高める「インカム」の組み合わせによる相乗効果が明らかになる中で、4月からの介護報酬改定では「両機器の組み合わせ活用」を要件に、特養で夜勤職員の配置要件まで踏み込んだ緩和が実施される。
介護ロボットや業務支援システム、インカムなどは単体でも介護現場を助ける機能を発揮するが、今後は相互に連携することでより効率的にデータ収集が可能になり、解析結果のフィードバックにより課題解決ができることが重視されるようになってきた。
そのためには、各機器がインターネットに接続する機能(IoT)や、遅延の少ないインターネット回線の環境整備(Wi-Fi)などを一体的に整備することが求められるようになっている。
こうした要請に対応する形で、20年度第3次補正予算では地域医療介護総合確保基金の「介護ロボット導入支援事業」として ▽介護ロボットに30万円/台(移乗、入浴支援機器は100万円/台)助成 ▽Wi-Fi工事やインカム導入など通信環境整備に750万円助成――を行う。通常の助成率は50%以上だが「インカム、見守り機器、介護ソフト等の組み合わせによる利活用」には75%以上の傾斜的な助成が行われる。
また、「ICT導入支援事業」では、業務支援システムやタブレット、スマートフォン、インカム、Wi-Fi導入などを対象に、施設規模に応じて100~260万円まで助成される。助成率は通常50%だが「LIFEへのデータ登録体制が整備され、サービス提供票の事業所間/施設内での連携がとれていること」など一気通貫を要件に75%以上が助成される。
既存の業務支援システムに、直接的に業務効率化が期待されるバックオフィスソフトである勤怠管理やシフト管理機能を追加する費用も助成対象となる。
新型コロナ対応 「接触機会削減」パターン普及も
新型コロナ感染症の影響を受け、接触機会の減少が期待される「見守りセンサー+インカム+非装着型の移乗支援機器」の活用パターンの普及を念頭に、相談窓口とラボの増設・機能拡充などに20年度3次補正で2.4億円が予算化された。
訪室回数を減らすことができ、密接による移乗動作の最小化、介護職員どうしの対面時間の削減などが「新しい生活様式」として評価されることを目指す。
基金「今年度予算を来年度執行」可能に
主に介護ロボットやICTに関する助成は地域医療介護総合確保基金より行われるが、厚労省が2月19日に都道府県に行った通知では「20年度予算を21年度(過年度)に実施することを認める」との方針を示した。
来年度以降の介護報酬改定の全容が明らかになる中で、基金による助成を希望する介護事業者が急増することを想定し、20年度予算を活用し、21年度(過年度)に執行する柔軟な取扱いを都道府県に求める内容。
本来であれば1月に国との協議を経て内示が行われるが、都道府県計画の変更の手続きをすることで、これまでに交付された基金残高を使って過年度執行を認める。対象は介護報酬改定や運営基準等の改定に対応するための費用で、基金の既存事業へ事業変更を行う場合について国は「原則として承認する」ことを明記した。
<シルバー産業新聞 2021年3月10日号>