毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は「排泄ケアの本当の難しさ」という話題について紹介します。
PPKは理想だけど…、訪問ヘルパーが見た現実
「ピンピンコロリ」という単語をご存知だろうか? これは読んで字のごとく、「いくつになってもピンピンとしており、死ぬ時はコロリ」というもの。
平均寿命1位の長野県で提唱されたこのピンピンコロリは、今や「PPK」と略されるなど、年配者の間には広く浸透している“理想の人生”だ。しかし現実はなかなか厳しく、死が近づいた段階では、多くの人が、人の手を借りなければ生きていけなくなるのは周知のこと。
現役訪問ヘルパーのHさんも、厳しい現実を何回も見てきたという。
これは90代前半の女性・Aさんのケース。Aさんは大変良い家柄に育ち、人生全般にわたって優雅な暮らしを営んできた。夫は10年ほど前に亡くしたものの、子や孫にも恵まれたAさんはずっと一人暮らしをしていたが、「さすがに90歳の母に一人暮らしをさせるわけにはいかない」との息子の申し出により、息子の家に世話になることになった。
しかし、環境が変わったのが悪かったのか、たまたまそういうタイミングだったのかは分からないが、息子の家に身を寄せたAさんはみるみる身体が衰えていった。そこで、生まれて初めてヘルパーの世話になったAさんだったが、ある日失禁をしてしまった。
ヘルパーのHさんは、 “ごく日常”の排泄ケアとして対応したが、Aさんは失禁したことを酷く恥じて、「こうなったらおしまい」というような台詞を吐き、生への執着を失ってしまった。そして、Aさんは、あっという間に亡くなってしまった。
排泄処理で挫折する家族
ちなみにHさんによれば、それまで身内の人が介護をしていたものの、“プロ”に頼むようになった家族には、「排泄処理で挫折した」というケースが多いそうだ。中でも「息子が母を」「娘が父を」など、異性の親の介護を家族がしていた場合、「排泄の処理はどうしても無理」と感じる人が多いらしい。
また、介護される側にも、排泄ケアに関してはまったく相反する“好み”が存在するという。すなわち、「身内ならまだしも、赤の他人に下の世話をしてもらうのはイヤだ」という人がいる一方で、「家族に下の世話をしてもらうぐらいなら、介護の世話になる方がいい」という人もいるそうだ。
ヘルパーのHさんは、先述のAさんについて、「何かもう少し心理的負担を和らげてあげられるような台詞をかけられなかったかな」と、悔やむ気持ちがあるという。排泄ケアはヘルパーにとってきつい仕事だが、イヤなのは“処理してもらう側”とて同じこと。むしろ慣れるまでは、処理してもらう側の方が心理的につらいだろう。
なかなかハードルは高いが、ヘルパーは排泄処理をするだけでなく、される側の心理的負担を減らしてあげるスキルも求められるようだ。
公開日:2015/5/25
最終更新日:2019/4/1