毎回、ちょっと困った介護スタッフの珍行動や、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は「利用者とのコミュニケーションに正解はない?」という話題について紹介します。
訪問介護で、よくある問題に遭遇した新人ヘルパー
どんな仕事をしていても、不条理な思いをすることはある。それを乗り越えてこそ、社会人としても人間としても成長できる、といえるかもしれない。
訪問ヘルパーのTさんは、利用者と接するなかで遭遇したトラブルにより、人間的に大いに成長できたと語る。
Tさんが遭遇したトラブルは、決して深刻でないが、だからこそ対処するのが難しいものだ。それはまだTさんがヘルパーになりたての30代の初め頃。数回目の訪問となる利用者のKさんのお宅でのことだ。Kさんはもともとあまり愛想が良くなく、他のヘルパーも「苦手」だと語る人が多かった。
Tさんはその日、いつも以上に何度もKさんに怒鳴られた。
「こないだ言ったろ」
「何度も言わせるな」
「○○は××に置け」
Kさんには、日常生活の細部に至るまでKさんにしか分からない「Kさんルール」があり、それをその通りにしないと不機嫌になるタイプ。
しかもKさんは、自分が一度説明したことをヘルパーが聞き直すと酷く立腹するので、担当者は枕やコップ、テレビのリモコンの位置、冷暖房の設定温度などを覚えておかなくてはならず、それが大変難儀なのだ。
人が変われば、求められることも変わる
その一方で、Tさんが同時に担当していた別の利用者Iさんは、まったく真逆のタイプだった。例えばIさんが「飲み物が欲しい」といった場合、前回は温かいお茶を所望したので、今回も温かいお茶を持って行くと、「今日はお茶じゃない」と立腹。Iさんの場合、これまで10回中10回温かいお茶を所望しても、毎回「何を飲みますか?」と聞くのが正解。つまりIさんは、「(その時どんな気分かわからないので)毎回尋ねてくれ」というタイプだったのだ。
両極端の利用者に翻弄される日々。こうした経験により、Tさんは強いストレスを感じ、周囲に何度となく不平不満をぶつけていたという。
しかし、ある時友人に「文句を言いたくなる気持ちは分かるけど、KさんやIさんみたいな(自分のルールを押し付ける)ことを、アナタもどこかでしてるのかもよ」と言われ、返す言葉を失ってしまったのだそうだ。確かにKさんやIさんは、彼らのなかでは当たり前のことを要求しているだけなのだということに、Tさんは気付かされたのだ。
それ以来、Tさんは、このような“頑固な”利用者たちと接するうえで、「腹を立てる前に、相手の気持ちになって考える」という習慣が身に付いた。
学生時代の友人などと久々に会うと、「(良い意味で)人が変わった」「優しくなった」「大人になった」と言われるのだとか。
今では後輩に指導する立場になったTさんは、後輩が不平や不満を述べた際には、「介護に正解はないんだから、利用者一人ひとりが望むことをしなさい」とアドバイスしているそうだ。