毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「優しすぎる人はヘルパーには向かない?」という話題について紹介します。
優しいけれど、トラブルメーカーだった訪問ヘルパー
食事介助、排泄介助、家事全般など、訪問ヘルパーの仕事は多岐にわたるが、すべてに共通して求められるのは、利用者の気持ちに寄り添うこと。お年寄りの立場に立って介護を行うためには思いやりが必要だ。
しかし、都内の事業所に十数年勤務し、これまで多くの新人スタッフの教育にあたってきたタナカさんは、「優しすぎるあまり、問題が多かった」という女の子の例を見たことがあるという。
その「優しすぎる」訪問ヘルパーは、高校を卒業後に専門学校に進み、20歳そこそこで介護業界に飛び込んできたキョウコさんという女の子。
介護福祉士の資格も取得済みで、やる気にあふれたキョウコさんだったが、事業所内ではトラブルメーカー扱いだったという。
タナカさんはこう語る。
「キョウコちゃんは、お年寄りが大好きでした。それ自体はすごく良いことなんですけど、“一線を引く”っていうことができない子だったんです。
たとえば彼女は、『寂しくてしょうがない』と、孤独を訴える利用者のもとを勤務時間外に訪問してしまいました。多分どこの事業所も同じだと思いますが、ウチでは利用者との個人的な交友は禁止しています。
また、あるおばあちゃんのお宅に伺ったときは、昔話に耳を傾けているうちに規定の時間が来てしまったんですね。
そのおばあちゃんには持病があって、薬を飲ませなくてはいけませんでした。けれども彼女は話に夢中になるあまり、薬を飲ませるのを忘れ、『ゴメンなさい! 次の所に行かなきゃ!!』と、次の利用者のところに移動してしまったんです」
利用者からの評判は良く、担当を外すと不満の声が…
こういったキョウコさんのような行動は事業所にとっては大きな問題である反面、彼女が担当した利用者は、彼女に大変感謝しているそう。
先述のトラブルでも、キョウコさんを担当から外したところ、「何であんなに良い子を!!」と不満の声が寄せられたという。
タナカさんは、ため息混じりにこう語る。
「私だって、『お茶でも飲みながら、利用者の話をゆっくり聞いてあげたい』『もっとゆっくり、丁寧にお世話をしてあげたい』ってしょっちゅう思っています。
けれども、我々はボランティアではないし、他にも待っている利用者がたくさんいるんです」
キョウコさんは結局、1年足らずで辞めてしまい、その後、介護の仕事に就いているかどうかもわからないのだとか。
ヘルパーにとって「優しさ」は大切なものだが、ある程度のケジメが伴わなければ、せっかくの優しさも“宝の持ち腐れ”になってしまうようだ。