毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「ヘルパー冥利につきる瞬間」という話題について紹介します。
突然届いた知らない相手からの手紙。恐る恐る中を見てみると…
人が働いていく上で、もっとも大きなモチベーションは“お金”かもしれないが、感謝の気持ちが伴わなければ、その仕事はきっと長続きしないはずだ。
関西地方でホームヘルパーとして働くモリさんは先日、「ホームヘルパーをやっていて本当に良かった」と感じる瞬間があったという。
モリさんは現在40代後半で、ホームヘルパー歴は合計20年近くにおよぶベテラン。そんなモリさんは先日、まったく見覚えのない相手から手紙をもらったそうだ。モリさんが語る。
「ある日、いきなり知らない人から手紙が届いたのです。驚くというよりも警戒心しか沸いてこず、読まずに手紙を捨てようかとも思いましたが、住所も宛名も私にあてた手紙で間違いありません。
もしかして、昔の知り合いが結婚して名字が変わったのかと思い、封を開けることにしました」
近頃は、友人や家族同士の連絡でもLINEやメールを使うことが多く、知らない電話番号からかかってきた電話に出なくても非常識でもなんでもない時代。いきなり知らない相手から手紙が届けば警戒するのは当然だ。
モリさんが恐る恐る封を開けると、手紙にはこんなことが書かれていたという。
警戒しながら開けた手紙の中身は…なんとモリさんご指名のヘルパーの依頼!
「突然届いた手紙は、私がまだヘルパーになりたてだった頃にお世話をした男性利用者さんの娘さんからのものでした。
手紙によると、男性は当時80代で、認知症がかなり進んでいたのですが、私が訪問すると大変機嫌が良く、晩年は家族に私の話ばかりしていたそうです。
その後10数年が経って今度は母親の介護が必要になったため、私に面倒をみてもらえないか?というのが手紙の内容でした」
手紙を読むまで、その男性のことは忘れていたものの、手紙を読んではっきりと当時のことを思い出したモリさん。
しかし、ヘルパーの住所は個人情報として管理されており、利用者や家族がそれを知る由はない。娘さんはなぜモリさんの住所がわかったのか?
「当時、地元のスーパーでばったり男性のご家族に会って、『○○のあたりに住んでいる』と話した記憶があります。田舎町なので、その記憶と名前を頼りに住所を調べたんでしょうね」
利用者からご指名を受けた形のモリさん。わざわざ手紙を書いた娘さんの希望は叶ったのだろうか?
「私が働いている事業所では、特定のヘルパーを指名することは許されていません。
上司は、手紙の話を聞いて、『モリさんにとっても名誉なことだし、希望は叶えてあげたいがなぁ……』と言ってくれましたが、1度認めてルールがなし崩しになるのは困るということで、“ご指名”は叶いませんでした」
モリさんがこのような手紙をもらうのは初めてだったが、ヘルパーを指名したいという希望が介護事業所に寄せられることは少なくないのだそう。
モリさんはなかば冗談、なかば本気で、「指名料制度とかがあれば良いのにね」と、話しているそうだ。
介護の仕事は楽なことばかりではないけれど、「あなたがいい」と指名してもらえるほどの信頼関係を作ることができるのは、大きなやりがいになるはずだ。