毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「運転免許の返納」という話題について紹介します。
高齢者の運転免許返納、介護職はどう見ている?
2019年の上半期、大きな話題となったのが高齢者の運転による交通事故だ。
高齢者による悲惨な死亡事故が立て続けに起きたことで、高齢者の運転の安全性を危惧する声が噴出。
自主的な免許返納を望むムードは日増しに強まっている。
しかし、日々、高齢者と触れ合う介護スタッフによれば、免許返納にも良し悪しがあるという。
都内の訪問介護事業所で働くハセガワさんは、これまで色々な例を見てきたそうだ。
「ヘルパーとしてお年寄りのお宅を尋ねると、『こんな人が先月まで運転していたの?』というような方に出会うこともあります。
手がプルプルと震えて、自分で食事をするのが難しかったり、妻や子供の名前がすぐに出てこなかったり、新聞の文字を数センチぐらいの距離で読んでいるような方が、ついこの間まで運転していたと知り、心の中で『ウソでしょ?』とつぶやいた経験は何度もあります」
誤解のないように説明しておくが、75歳以上の高齢者は、運転免許の更新のために、視力はもちろん認知機能検査を受けることが必要。
検査をクリアしなければ免許は更新できないため、運転免許が更新されたということは、認知機能には問題ないということだ。
運転免許の返納をめぐるさまざまな問題が…
ただ、高齢者から免許を取り上げれば、すべてが丸く収まるかと言えば、それはまったく違うようだ。
「免許を返納したことで、一気に老化が進んだという話は本当によく聞きます。
私が非常に親しくさせて頂いている80代の男性のYさんは、何十年も事故を起こしていなかったのに、運転能力を心配した娘さんにすすめられて、やむなく免許を返納。
自分で運転しなくなってからはまったく外に出なくなって、一気に足腰が弱ってしまったそうです。
他にも『無気力状態になった』『口数が極端に減った』というのもある聞く話です。
免許返納を持ちかけて親子で大ゲンカになったり、強引に返納させたがために家族関係が険悪になったという相談をされたこともありますし、最悪のケースでは、免許を返納したのに車で出掛けてしまうので困っているという話も聞いたことがあります」
無免許で運転してしまうとなると、たとえ事故が起こらなくても大きな問題だ。
運転できなくなった時に備えて準備しておいて
一方で、高齢者の運転についてハセガワさんはこう語る。
「日々、お年寄りのお世話をしていると、“歩く”という行為がいかに大事なのかを痛感します。きちんと歩いている人はやっぱり元気ですよ。
『車がなくなったら、どこにも出かけられなくなる』という話もよくわかりますが、いつかは運転できなくなる日がくるものです。
その時に備えて、車以外で出かけられるような手段を準備しておくことを、利用者さんにはおすすめしています」
この意見には賛否両論あるだろうが、長年お年寄りに寄り添う仕事をしてきたハセガワさんの、“結局大事なのは自分の足”という言葉は重い。
高齢者の運転に厳しい目が注がれるようになった今、運転できなくなったお年寄りを支える介護の仕事の存在感は、今後益々高まることになりそうだ。