介護の仕事は、利用者の生活に寄り添う仕事。人として成長することもでき、他の仕事に代えがたい魅力があります。しかし一方で、肉体的・精神的なストレスは少なくありません。介護特有の仕事のストレス、人間関係のストレス、給与や体力への不安…
介護福祉士・心理カウンセラーの篠雅行さんがアナタのお悩みにアドバイスします。
今週のお悩み事例
ちはるさん(有料老人ホーム 8年目 主任 27歳)
私は主任になって2年目のリーダーです。今年入った新卒のAくん(20歳)ですが、やる気がなくて困っています。
指示をしたことはやりますが、自分から動くということはなく、私もAくんに仕事を振るよりも自分でやってしまった方が早いので、つい自分でやってしまい、負担が増えてしまいます。
行事のことなど色々やることも多いし、もっと気をきかせてテキパキ動いてくれると嬉しいのですが。どうやったらやる気を出して仕事に取り組んでもらえますか?
篠さんからのアドバイス
ちはるさん、日々のお仕事本当にお疲れ様です。
ちはるさんはリーダーの立場になって2年目なんですね。リーダーになると仕事の質がガラッと変わりますよね。職員をどう活かすか、仕事をどう割り振るか、ちゃんとやってくれているか、部下にどう教えるか、たくさんの責任がかかり、頭はいつもフル回転だし、本当に大変ですよね。
部下はいわばご利用者と接する「職人」ですが、リーダーは「職人兼マネージメント」という仕事になりますよね。
将棋で例えると、今まで「駒(=部下)」だったのが「将棋を指す人(=リーダー」に変わったわけです。(人を駒に例えるのは大変失礼ですが、わかりやすくお伝えするためにご了承ください)
指す人によって、将棋のやり方が変わるように、リーダーによって、チームとしてのやり方が変わってきます。
あなたがどんなチームにしていきたいかということで、チームの色も変わってくるし、職員の役割も変わってきます。
さて新卒のAさんですが、個人差はありますが、確かに入りたてというのは、仕事のやりがいや達成感をまだ味わえておらずモチベーションが湧きづらいのかもしれませんね。色々な育て方があると思いますが、私がリーダーだった時は、任せられる仕事はどんどん部下に任せました。なるべく私は動かず、ある程度のやり方だけ伝えて、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)を聞いて、その際「ありがとう」「良くやっているね」など、ねぎらいの言葉や感謝の気持ちを伝えました。
その人なりに精一杯頑張っていると思うし、部下が動いてくれて現場が回っているという思いがあるからです。
あれこれ答えを教えるのではなく「どうしたらいいだろうね〜?」と考えさせる質問や返しをしましたね。質問をして、考えてもらって、部下なりの答えをもって動いてもらう。部下は自分で経験して、上司にフィードバックする。その繰り返しでしたね。部下を信頼して任せて、あとはカウンセリングのようにヒアリングやねぎらいの言葉や質問を繰り返しました。そうすることで部下は、だんだん成長していきましたね。
自分でやってしまう方が早い、失敗するかもしれないという理由から、部下に仕事を任せられない気持ちもわかりますが、「本当にうちの部下は使えない!」と文句を言う上司を私から見たら「使えない」のではなく「うまく活用出来てないのでは?」と感じる時があります。
仕事を自分で抱えてしまうリーダーの特徴として、潜在的な心の深層に「わたしはすごいんだ!」という承認欲求が隠されていると思うのです。仕事を抱え込み「自分がいなければならない状況」を作ることで、自分の存在を満たそうとしている。本当に良い現場というのは「リーダーがいなくては回らない現場」ではなく「リーダーがいなくても部下がまわしてくれる現場」ではないでしょうか。
私の上司が交通事故に遭い、急に数カ月現場を離れてしまったことがありました。部下だけで頭をひねり、毎日試行錯誤して、現場をまわしました。一番仕事の力がついたときだったかもしれません。
あともう一つ、A君はまだ新人の若干20歳です。やる気がないのではなく、まだ自信がなかったり、自分の意見を言うことに慣れていないだけかもしれませんよ。
思い切って部下に仕事を任せてみるというのはいかがでしょうか?ミスが多くなるかもしれませんが、ミスが起きた時に、ちはるさんが「ミスはしょうがない。次に生かそう!」とフォローすることで、部下との信頼関係が生まれると思うのです。
プロフィール
篠雅行(しの・まさゆき)
老人ホームや在宅介護事業所、障害者授産施設で介護職を務めるなかで、介護業界で働く人を精神的にサポートしたいと思い、カウンセラーの勉強を始める。介護福祉士、認定心理士、一般社団法人心理技能振興会 心理カウンセラーの資格を持つ。
公開日:2014/12/4
最終更新日:2019/9/18