■書名:誰も気づかなかった介護の真実
■著者:医療法人 森田記念会・介護老人保健施設 プロスペクトガーデンひたちなか編
■発行元:講談社
■発行年月:2012年2月20日
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8時間の疑似体験で聞こえてくる利用者の声、変わる職員の意識
介護される高齢者の心の痛みや不安に思いを巡らし、理解し、寄り添うーー。それは介護に携わる人が等しくめざす介護の形だろう。しかし一方で多くの方が、「介護される方の気持ちを本当に理解できているのか?」という疑問や不安を抱えているのが実態ではないだろうか。
本書は、介護老人保健施設「プロスペクトガーデンひたちなか」が導入している利用者疑似体験プログラムの体験リポートをまとめたものだ。当施設がそのプログラムを始めたのも、「利用者の立場に立つと言っても、実際に体験してみないと理解できないことが山ほどあるはず」という思いからだ。
プログラムは全職員が対象で、フルタイム(8時間)で行われる。「82歳、要介護4、ほぼ寝たきり、右半身麻痺、失語症」という設定ストーリーの主役になりきり、摂食障害、ソフト食、オムツへの排泄、車椅子、2時間ごとの体位交換、リハビリといったことを利用者と同じように体験するのだ。そして職員たちは、わかっているつもりで実はわかっていなかった、そういう事実にいくつも直面する。それは「想像していた以上にショッキングなもの」だったと言う。なぜなら頭でイメージしていたものと、あまりにかけ離れていたからだ。
たとえばそれは、オムツに排泄することの難しさや羞恥心、不快感、体を動かせないつらさ、不味いソフト食、パジャマでリハビリをする恥ずかしさ、時間がわからなくなる感覚など。それらの感想一つひとつが、読んでいてもつらかった。しかし本当に衝撃を受けたのは、職員達の体験リポートに、「誰か声かけて!話しかけて!」「ここでは、してもらうばかりなんだな、と思うと悲しく」といった切実な言葉が綴られていたことだ。8時間、利用者になりきったからこそ実感した「寂しい・孤独だ・不安だ」という気持ちなのだろう。
<目から鱗の落ちるような経験から我々の得たものが、やっと聞き取ることのできた、痛切な利用者の「心の声」であった。それらの声が我々の現場に、さまざまな革命を起こしてくれたのである。>
疑似体験をきっかけに職員の意識と態度に変化が現れ、職員だけでなく、利用者までもが活き活きとし、施設全体が明るくなる。そして職員全員が疑似体験を修了したころから、まったくクレームが来なくなったと言う。
こうした疑似体験は、現実にはなかなかできるものではないだろう。だからこそ、ここにまとめられた感想を読み、職員たちが感じたことを追体験してみてほしい。明日からのケアに活かせるヒントがたくさんあるはずだ。
<小田>
著者プロフィール
医療法人 森田記念会・介護老人保健施設 プロスペクトガーデンひたちなか
2004年11月1日にオープン。プロスペクトガーデンは「将来を見通す庭」を意味する。介護をポストメディカルケアという独立した分野と捉え、医師や看護師、介護士、理学療法士等のリハビリ職員、事務職員、調理担当職員がすべて介護を行う上では同等の立場としているのが特徴。