■書名:介護ヘルパーは見た 世にも奇妙な爆笑!老後の事例集
■著者:藤原るか
■発行:幻冬舎
■出版年:2012年9月
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勤続20年以上のホームヘルパーが説く、介護の心構え
本書のまえがきを読み始めると、早々に〈75歳以上の4人に1人が要支援・要介護者〉〈65歳以上人口の10人に1人が認知症〉という数字が目に飛び込んできた。将来的な推計ではなく、今現在の日本が置かれている状況だ。日本が高齢化社会であることは認識していたつもりだが、改めて事実を突きつけられると少々面食らう。
〈今はまだ元気でも、近い将来、親の介護に直面する日がきます。自分には無縁だと思わず、介護をうまく乗り越えるコツを知ってほしいと思います。そうすれば、いずれ訪れる親の介護を恐れることなく迎えることができるはずです〉
著者の藤原さんは、学生時代に障害児の水泳指導ボランティアへ参加したことを機に福祉に関心を持ち、20年以上介護に従事してきた、ベテランホームヘルパーである。
本書では
〈妻が外出すると寂しがって、ウンチを部屋中に塗りつける認知症のおじいちゃん〉や、
〈1ヶ月1万円の食費でやりくりする要支援1のおじいちゃん〉など、様々な事例をあげながら、「認知症と物忘れの見分け方」から「介護保険制度を上手く利用するコツ」まで、親の介護に直面したときに役立つリアルな情報を教えてくれる。
とりわけ、ヘルパーの在り方についての考え方は、これから介護をする家族にはぜひ留意して頂きたい事柄だ。
〈時間がかかっても、本人にできることはやってもらいます。(中略)本人ができることまでやってしまうと、お年寄りの意欲をそぐことになり、身体機能の衰えにもつながるからです〉
そもそもホームヘルパーの仕事は、調理や掃除などの家事全般の援助を行う「生活援助」と、排泄や入浴などの身体的な介助を行う「身体介護」に分かれている。
これらを介助者が機械的にこなすのではなく、家事を一緒にしたり、声をかけながらゆっくり身体介護したりすることで、日常生活動作の維持や心のケアにもつながるという。
だが、2012年4月1日に施行された新しい介護保険制度では、生活援助の「30分以上60分未満」「60分以上」だった区分が「20分以上45分未満」へ、身体介護の「30分未満」だった区分が「20分未満」「20分以上30分未満」に改定されたため、ホームヘルパーは時間内に終わらせるために、流れ作業のように業務を進めなければならいという事態が発生し始めた。
時間内に仕事が終わらない場合は、被介護者が自費負担やヘルパーがボランティアで時間超過して行う場合もあるらしい。介助者の体調の変化の察知にも欠かせないコミュニケーションもままならず、ヘルパーはより過酷な労働環境を強いられる血の通わないしくみだと、藤原さんは憤りを露わにする。
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核家族化が進み、1人あたりにかけられる介助者数が減った今の日本の家庭では、もはやホームヘルパーの手助けがなければ在宅介護は立ち行かない。藤原さんは巻末で、介護の理念である「本人らしい、人間らしいくらしのサポート」を守るべく、今後も〈介護を担うホームヘルパーの人権の保障〉を確立するための活動を続けていくと誓っている。
〈老い〉とは、命あるすべてのものが避けて通れない宿命だが、実際にそのときが来るまでは、目の前の生活に必死で、なかなか具体的に想像できないもの。そんな将来の介護へ漠然とした不安を抱えている方にとって、藤原さんの被介護者のエピソードを披露する温かい語り口と、介護の現場が直面する問題にも真正面から苦言を呈して戦おうとする姿は、きっと頼もしく感じるだろう。
<茂田>
著者プロフィール
藤原るか(ふじわら・るか)さん。
区役所の福祉事務所を経て、現在は東京都の訪問介護事業所に勤務するホームヘルパー。「共に介護を学び合い・励まし合いネットワーク」を主宰し、事業所の枠を超えた勉強会の開催や、海外の介護現場の視察をしながら、日本の介護環境の改善に向けて精力的に取り組んでいる。