■書名:みんな寂しいのです ― 私の介護現場ノート
■著者:黒梅 明
■出版社:あけび書房
■発行年月:2019年10月
>>
『みんな寂しいのです ― 私の介護現場ノート』の購入はこちら
認知症介護の現場から高齢者の「生きざま」を知る、優しく温かい介護記録
介護施設でも在宅介護でも、認知症がある方の介護は大変だ。会話が成立しない、徘徊する、毎日お世話するのに顔を覚えてくれない、入浴を拒む、便を掴んだりして周囲を汚されるなど、苦労が絶えない。
一生懸命やっても報われないと、心が荒んでしまうこともあるだろう。
そのようなときに手に取ってもらいたいのが本書だ。
著者の黒梅さんは、病気を抱えて困難に陥っている人の相談援助をしたいと、50歳半ばでそれまで勤めていた病院職員を辞めてカウンセラーの勉強を始めた。
生活費を稼ぐためのとりあえずの仕事として、ヘルパーの資格を取って介護施設で働くことにしたという。
しかし、その介護の現場で出会った多くの高齢者から生きることの意味を気づかされ、その人たちのことを記録に残したいと一冊の本にまとめあげた。
本書は次のような文学的なタイトルの章立てで構成されている。
俳優9人の小劇場 ― 城下町の認知症高齢者グループホームでの体験
人生いろいろ ― 小さな町の老人保健施設での体験
みんなありがとう ― 山間の認知症グループホームでの体験
真夏の昼下がり ― 海沿いの認知症グループでの体験
尊厳に満ちた人生記録 ― 泊まりもできる民家型デイサービスでの体験
愛しい高齢者 ― 地方都市の小規模特別養護老人ホームでの体験
住み慣れた地域で暮らす ― 田舎町の認知症グループホームでの体験
人生の最後を生きる ― 田舎町の小規模特別養護老人ホームでの体験
介護から見えてくるもの
最終章を除いて、すべて詩のような短文で記してあっておもしろい。
高齢者との会話はゆっくりで、一つひとつの言葉が短く繰り出されるので、その趣きを伝えたいためにあえてそうしているそうだ。
<あの世に行きたくなったと夜中に無表情なままあなたが言う(中略)
あなたに寄り添いながらあなたの声を出して笑う顔が見たい
何とかして笑顔を取り戻したい
眠り始めたあなたを見ながら私は考える>
まるで詩を読んだかのようなふわりとした読後感が残るのではないだろうか。
その人のことが詳細に書かれているわけではないのに、その人の人となり、家族とのかかわり、施設での生活ぶりなどが容易に想像できる。
本書で描かれているのはよくある介護施設での日常の出来事で、必ずしもきれいごとではない。
しかし、黒梅さんの温かい優しいまなざしを通すと、日々の問題行動もその人の生きざまの一コマとなって、しっくりと収まってしまうので不思議だ。
認知症介護の仕事は大変で辛くて、こんな甘っちょろい気持ちなんかになれないと思うかもしれない。
しかし、認知症を持つ方々もそれぞれの人生を歩んできたれっきとした一人の人間なのだ。
日々の忙しさに忙殺されて失いそうになる心の潤いを本書で取り戻していただきたい。
著者プロフィール(引用)
黒梅 明(くろうめ・あきら)さん
1948年2月、金沢市生まれ。静岡大学農学部、放送大学教養部(発達と教育専攻)、日本福祉大学中央福祉専門学校社会福祉科(通信課程)を各々卒業。社会福祉士、介護支援専門員。配管工見習いから始まって、今の介護職場まで40回ほど職場を変える。日教組大学部、統一労組懇、民医連運動、革新懇運動に参加。医療・福祉問題研究会会員、日本社会福祉士会会員。
こちらもオススメ!介護のお仕事まるわかり情報
□
介護職・ヘルパーの魅力・やりがい・給与情報を徹底解説!
□
ケアマネの仕事の魅力や給与事情は?介護職からの転職でこんなメリットが!
□
サービス提供責任者の魅力や給与事情は?最新の資格要件も解説!
□
福祉用具専門相談員ってどんな仕事?やりがいや気になる給料事情を解説!
□
生活相談員ってどんな仕事?給料や仕事の魅力は?資格要件もチェック!