■書名:認知症になっても人生は終わらない 認知症の私が、認知症のあなたに贈ることば
■著者:認知症の私たち(協力:NHK取材班)
■出版社:harunosora
■発行年月:2017年4月
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「私たち抜きに私たちのことを決めないで」認知症の本人が語る生の声
もし自分が認知症と診断されたら、自分の人生は終わったと感じる人も多いのではないだろうか。
認知症の人が実際にどのようなことを考え、どのように暮らしているのかを知る機会は少なく、世間一般のイメージがそうだからだ。
本書は、認知症の人たちが自分の言葉で自分を語る画期的なもの。
そして、力強く「認知症になっても人生は終わらない」と訴える希望の書だ。
執筆するのは、認知症と診断された40代から90代までの男女。
まえがきは、その中の一人、丹野智文さんの文章だ。自動車販売会社でトップセールスマンとして活躍していた35歳の頃、客の顔がわからなくなるようになったという。
39歳で若年性認知症と診断され、43歳の今、仕事を続けながら全国で講演活動もしている。
Part1「届け、私たちの声!」には、認知症の人々による直筆のメッセージがそのまま掲載されている。
「認知症の人は普通の人です」
「出来ることをうばわないで。出来ないことだけサポートして!!」
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」
「腫れ物にさわるように接しないで」
「徘徊ではない。目的があって歩いている」
タイトルの「認知症になっても人生は終わらない」も、このうちのひとつ。
これまであまり耳にすることのなかった当事者の正直な気持ちが表れていて、ハッとさせられる。介護に関わる人にとっては、新たな気づきや反省点が見つけられるはずだ。
Part2「認知症の私から認知症のあなたへ」では、認知症の当事者11人が文章で思いをつづる。
いずれも一度は人生に絶望しながら、少しずつ自分を取りもどした人々だ。認知症の仲間に励まされた人、趣味を見つけた人、ボランティアを始めた人など、前向きに生きる姿は、後に続く人の希望となることだろう。
具体的に絶望を脱するためのヒントとして、多くの執筆者がとりあげているのは、「仲間」や「社会」とのつながり。同じ病気の仲間、同じ悩みを持つ仲間と会って話すことが、再び歩き始めるきっかけになったのだという。
74歳、前頭側頭型認知症をわずらう奥公一さんは下記のように語る。
<仲間と、社会とにつながっていてこそ、生きる喜び、生きる希望が生まれて来ます。もしあなたが、孤独の中に閉じ籠っているのなら、今直ぐにでも、行動を起こすことを勧めます。>
とにかく、同じ仲間と出会える場所に出かけていくこと。そこで自分の苦しみや悩み、疑問を話し合えば、必ず何かのヒントがみつかるのだという。
そして自分にできる仕事、ボランティア、趣味の活動などを始める。仲間や社会とつながることができれば、少しずつ生きる力が湧き出してくる――奥公一さんからの具体的なアドバイスだ。
本書には、認知症の仲間へのエールに加えて、社会に向けて「私たちの声を聞いてほしい」という思いがあふれている。
認知症の人はもちろん、支える側として介護に関わる立場で読んでも、強く心に響く一冊だ。
著者プロフィール
執筆者(認知症の私たち)
大城勝史/奥公一/丹野智文/福田人志 他(敬称略)
協力
NHK取材班
番組「わたしが伝えたいこと――認知症の人からのメッセージ」(2015年12月14日放映)に基づいて製作。