■書名:介護現場で生まれたマジックワード100
■編著者:社会福祉法人 福寿園
■出版社:中日新聞社
■発行年月:2017年11月
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介護現場での「上手な声かけ事例」とは?一冊にまとめた「金言集」
古代の日本では、言葉には不思議な力が宿っていて、発した言葉どおりになると信じられていたという。本書を読むとそんな言葉の力が思い浮かんでくる。
何気ない一言が、人を温かな気持ちにさせ、絆を深めてくれる。本書では、そんなマジックワードと、それにまつわるエピソードの数々を紹介。
どれも10数行でまとめられた短編で、気になる言葉を見つけたらすぐに読むことができる。
掲載されている「マジックワード」は、社会福祉法人 福寿園の介護スタッフと、利用者やその家族とのやりとりを集めたもの。
福寿園は愛知県下に多くの介護施設・事業所を展開し、幅広く福祉サービスを提供する社会福祉法人。
そこでの新入職員研修用に、声かけ事例を募集したことがきっかけだという。
以前から、福寿園の新入職員研修では、相手の心を傷つけないために言ってはいけない「禁言集」の講義を実施していた。しかし、新人の介護スタッフにとっては、利用者にそもそもどうやって声をかけたらよいのか分からず、悩むことも多い。
そこで、先輩たちの成功事例を学ぶほうが新人教育に有効ではないかと、自然な会話の中から生まれた上手な声かけ事例を募集することとなったという。
その「上手な声かけ事例」=「マジックワード」を、「禁言集」ならぬ「金言集」として一冊の本にまとめたのが本書だ。
本書内で紹介されているマジックワードの一例を紹介しよう。
・認知症で日頃から意思疎通が難しい方の誕生日に、その手を握って「お誕生日おめでとうございます」と言ったら、ニコニコと手を握り返してくれた。
・気難しい利用者を食堂に案内するとき、なんとかならないかと考えて「一緒に行きましょう。お手伝いさせてください」と声をかけたら、「そんな風に言われたら断れないわ」と笑ってくれた。
・デイサービスの利用者の家族の方が、自宅での介護の大変さをいろいろ話してきたときに「ええ、ええ……そうなんですね、大変なんですね…」と相槌を打つと、「そうなんです。大変なんです」と言葉を詰まらせ涙を浮かべたが、やがて穏やかな顔になった。
どれも決して特別な言葉を使っているわけではなく、日常で交わされるごく普通のコミュニケーションの一場面だ。
それがマジックワードになるのは、相手を思いやり寄り添おうとする介護スタッフの広い心があってのこと。介護スタッフの気持ちのゆとりが、温かい良好な関係を築くことになると改めて気づかされる。
<「感情労働」とも言われる対人支援の仕事において、お世話する側に大らかに受け止める気持ちのゆとりがあることが、何よりも大切だと思います。家族の心配、将来や経済的な不安、仕事上の人間関係など、どんな人でも常に悩みを抱えています。精神状態が良くないときには、お年寄りに強い口調で話したり、扱いが雑になってしまったりするものです。そんな経験をして、後悔と反省を繰り返すことで、人として成長できるのかもしれません。(中略)お年寄りとの交流は自分の中にある志を掘り起こしてくれます。ほんわか胸の奥に温かさを感じながら、忘れかけていた「やさしさ」が再生されることを実感します。>
しかし、「この言葉を使うだけで何でも解決する」というような便利な言葉はなかなか存在するものではない。それを期待して本書を読むと、肩透かしを食らい、がっかりするかもしれない。
初心を思い起こし、少しでも心に余裕を持とうと心がけることが、介護に従事する者にとって何よりも大事であると気づかせるのが、本書の狙いなのではないだろうか。
また番外編として、利用者のお年寄りからの言葉もまとめられている。
・あなたがいるだけで、寿命が伸びるわ。
・私、これまでの人生で今が一番幸せです。
・気をつけてね。身体大切にしてね。 など
介護スタッフも、介護の大変さを忘れ、元気になれる言葉を利用者からもらっているのだ。
温かい気持ちを込めた言葉はすぐにでもマジックワードになる。本書はそんなことを教えてくれる。
編著者プロフィール
社会福祉法人 福寿園(しゃかいふくしほうじん ふくじゅえん)
1980年5月に厚生省(現厚生労働省)から設立許可を受け、同年12月に、視覚障害者の専門施設、養護盲老人ホーム「福寿園」を開設。以来、愛知県下に、特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム、ショートステイ、デイサービス、訪問介護、居宅介護支援など18施設90事業所を運営している。また最近では、障害サービス事業にも取り組んでいる。「愛と感謝と奉仕」の経営理念のもと、やさしく、温かく、心の通ったサービスをモットーに、地域に信頼される施設づくりを目指す。