■書名:介護するからだ
■著者:細馬 宏通
■出版社:医学書院
■発行年月:2016年6月
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「介護」は要介護者との絶妙な「相互行為」で成り立っていた!
人間行動学者ならではの観察眼で、介護の現場で行われる動作を分析した一冊。
対象となるのは、グループホームでの食事、レクリエーション、トイレや入浴、ベッド介助、人々の語らいなど、日常のありふれた動作ややりとりだ。
本書では、著者がその中で見つけた「からだ」の使い方について、さまざまなエピソードに沿って語られていく。
一番のポイントは、ここでいう「からだ」が、介護する人と介護される人双方の体を指すということだ。
これは、著者が介護を一方的なものではなく「相互行為」と考えているためと言える。
<介護とは一方的な行為であり、片方がもう片方に施すものだと思われがちだ。しかし、実際に微細な動作を観察していくとそうではない。介護は、介護職員と認知症高齢者の双方が身体をそれぞれのやり方で動かすことで、初めて達成される相互行為なのである。>
人と人とのやりとりがスムーズに進んでいるときには、緻密な相互作用が起こっているものだ。
本書でも例として挙げられているように、狭い廊下で誰かとすれ違う情景を思い浮かべてみるといいだろう。
お互いに同じ側によけようとして戸惑うこともあるが、多くの場合、立ち止まることなくお互いに体をかわしてすれ違う。
そこには、無意識のうちに相互作用が起こっているのだ。
著者は、介護においても、介護する人とされる人との間にそうした相互作用があるのではと話す。
ベテラン介護スタッフの「神対応」を撮影して見直してみると、そこには「うならされるような微細なやりとり」が存在することがわかるのだという。
そして、どのようなやりとりか、どのような体の使い方をしているかを、数多くのエピソードを通して伝えている。
たとえば、アルツハイマー型認知症のお年寄りの食事介助では、「食べてください」では動き出さなかった人が、「箸を持って」と実際に構えてみせると箸を取る。ぱくりと食べてみせると、ぱくりと口に入れて不思議そうに噛み始めるという。
まねをしてもらうことが効果的で、介護スタッフの動きが介護される側の動きを生んでいるのだ。
介護スタッフがケアの内容を声に出すのも、相互作用をスムーズにする知恵だ。
介護スタッフが「ハナさん、背中拭きますね。両手をあげてくださいますか」と声をかける場面では、言葉にして伝えることが相手の身構えを手助けする。
つまり、「ことばによって、次におこなう行動に対する身構えを相手と一緒につくる」ことになっているわけだ。
介護を相互行為と考えるようになれば、お年寄りを「介護行動のパートナー」として見直すことになる。
介護スタッフが一方的にケアを行おうとしてうまくいかないとき、もしかしたら相手の出している手がかりを見逃しているのかもしれない。
エッセイのような読み心地で、リラックスして楽しめる一冊でもある。
新しい視点を得て、介護の現場に限らず、自分の体の使い方を再認識するきっかけにもなることだろう。
著者プロフィール
細馬 宏通(ほそま・ひろみち)さん
京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士/動物学)。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授(コミュニケーション論)。2006年から介護現場での観察研究を始め、利用者やスタッフの会話にあらわれる身体動作を観察してきた。
著書に『浅草十二階――塔の眺めと“近代“のまなざし』、『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか――アニメーションの表現史』、『今日の「あまちゃん」から』、『うたのしくみ』など。関心は幅広く、ジャンルを横断した“目利き”として知られる。