■書名:マンガ 認知症
■著者:ニコ・ニコルソン、佐藤眞一
■出版社:筑摩書房
■発行年月:2020年6月
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家族の『介護』。いずれ来る日のために、知っておこう!
マンガ家ニコ・ニコルソンさんは、東日本大震災で実家が津波で流され、母親と祖母と3人での仮設住宅住まいを経て、苦労の末に元の場所に家を建て直した経験の持ち主。ようやく穏やかな日常が戻ると思った矢先、祖母が認知症になってしまった。
財布を盗んだと母を泥棒扱いしたり、漏らして汚れた下着を隠したり、徘徊したりと人が変わってしまったような祖母との生活に疲れ果てた母娘のところに、サトー先生なる人物が「そのお悩み頂戴します!」と現れた。
サトー先生こと佐藤眞一さんは、老年行動学を心理学の視点から研究する先生。高齢者施設の介護士さんと高齢者の行動の事例研究を続けている。
本書は、ニコルソンさんの祖母『婆ルソン』の様々な困った行動について、サトー先生がなぜそのような行動に出るのか、その心の仕組みを説明しながら、認知症について理解を深めていく。
「お金をとられた」「帰りたい」認知症の人の言葉はなぜ出てくるの?
『マンガ 認知症』の内容は次のようになっている。
序章 認知症ってなんですか?
第1章 「お金を盗られた」「強盗にあった」と言うのはなぜ?
第2章 同じことを何度も聞いてくるのはなぜ?
第3章 何度注意してもお米を大量に炊いてしまうのはなぜ?
第4章 突然怒り出すのはどうして?
第5章 高齢者の車の事故はなぜ起きるの?
第6章 介護者につきまとうのはどうして?
第7章 家にいるのに「帰りたい」と言うのはなぜ?
第8章 これってもしかして「徘徊」ですか?
第9章 排泄を失敗してしまうのはなぜ?
第10章 介護に疲れ果てました。どうしたらいいですか?
番外編 なんでお尻を触るんですかコラー!!
上記はどれも認知症の人によく見られる現象だ。
各章のタイトルに関わるエピソードと、なぜそうなってしまうのかがニコルソンさんのマンガで描かれ、さらに詳しい内容を佐藤さんが文章で解説。章末には、その困りごとへの対処法を三カ条にして載せる形式でまとめられている。
マンガだけでも十分にわかるように描かれているので、簡単に読むことができるのがうれしい。
巻末には、佐藤さん、ニコルソンさんがおすすめする認知症関連の図書リストもついていて、さらに理解を深めるための手助けになる。
認知症を介護する人の苦労が描かれる一方で、
介護される側の不安や辛さがていねいに解き明かされていて、認知症の人も健常者となんら変わらない一人の人間であるという当たり前のことがすっと心に落とし込まれる。
ニコルソンさんだけでなく、佐藤さんご自身の祖母も認知症になって家族が苦労した経験も紹介されていて、佐藤さんのまなざしが単なる研究者の目ではなく、温もりのある人間的なものであることがわかる。
介護する人と介護される人は対等
中でも介護する人とされる人が対等な関係性を保つことが心掛けるようにというアドバイスには、はっとさせられる。
<ケアとは「相手を思いやる」という意味で、誰でも介護を始めるときにはケアをしようとしています。でも、いつの間にか相手を縛ってしまう。介護が上手くいかなくなったり、意図がうまく相手に伝わらなかったりすると「思うとおりにならない」と悩むものですが、「思うとおりに」と考える時点でもうコントロールしているのです。>
認知症の人が何を求めているのか、何ができて何ができないのか、といったことを知ることで介護する側の対応はよりよいものになる。
認知症への理解を深めるきっかけとして、本書のご一読をおすすめする。
著者プロフィール(引用)
ニコ・ニコルソン(にこ・にこるそん)さん
宮城県出身。マンガ家・イラストレーター。東日本大震災で全壊した実家を建て直すまでの道のりをコミックエッセイ『ナガサレール イエタテール』(太田出版)で描く。その後、祖母が認知症を発症。介護生活の様子を『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、『わたしのお婆ちゃん』(講談社)で描く。
佐藤 眞一(さとう・しんいち)さん
東京都出身。大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学研究分野教授。博士(医学)。日本応用老年学会理事、日本老年臨床心理学会理事、日本老年社会科学会理事。著書に『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』(光文社新書)など多数。
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