「介護職員処遇改善加算」の効果が出てきた
全産業の平均賃金と比べて、格段に低いと言われている介護職員の賃金。それを改善するため、2009年に「交付金」としてスタートした、介護職員の処遇改善の取り組みが少しずつ実を結んでいるようです。現在は「介護職員処遇改善加算」と呼ばれているこの制度。簡単に言うと、
「介護職員の待遇を改善している事業者には、国が介護報酬を加算し多めに支払う」というものです。
介護サービスの種類ごとに決められた加算率で、事業者の報酬に加算する方法がとられています。厚生労働省が行った2015年度の処遇改善についての調査では、最も高い加算率を算定しているタイプの事業所群は、常勤の月給が平均28万7420円に。前年より、約1万3170円高くなったことが明らかになりました(*1)。
介護職員処遇改善交付金が始まる前年の2008年に行われた「賃金構造基本統計調査」では、「福祉施設介護員」の給与は21万5800円でした。このとき、産業計(全産業平均)は32万8800円。10万円以上の開きがありました。経験年数、平均年齢等の要素の違いがあり、単純な比較は難しいながらも、介護分野の賃金水準は産業全体より低い傾向にあると指摘されています。
ここで言う「福祉施設介護員」は、老人福祉施設だけでなく、児童養護施設や身体障害者福祉施設、その他の福祉施設で介護の仕事に従事する職員も含まれています。そのため、やはり今回の調査結果との単純な比較はできません。それでも、この7年で給与水準が少しは上がったと言えるのではないでしょうか。
給与水準を一律に引き上げていいのかという意見も
介護職員の処遇改善については、一方で、専門性の高い介護職員とそうでない介護職員の給与を一律に引き上げていいのか、という意見もあります。しかし、「専門性」とは何を指しているかという定義やそれを測る物差しは、今も確立されていません
介護の職場では、無資格者、介護職員初任者研修(旧・ホームヘルパー2級養成研修)修了者、介護福祉士などが、ほぼ同じ職務内容で働いています。これが、介護職員の処遇を考える上での難しさの一因ともなっているように思います。
介護福祉士の資格は持っているものの経験の浅い介護職員と、無資格ながら長年現場で経験を積んできたベテラン介護職員と、どちらの方が「専門性が高い」と言えるのか。意見の分かれるところです。専門教育を受けただけで、現場で起きる様々な問題に対処していくのはなかなか難しいもの。一方で、介護技術や、社会福祉援助技術、医療、高齢者心理などの周辺分野の知識などを体系的に学ばないままでは、独りよがりの介護になる恐れがあります。知識・技術と経験をバランスよく身につけていることが、「専門性が高い」といえるのかもしれません。
「質の高い事業所」を誰にでもわかるようにする指標づくりも
「専門性」と並んで、測りにくい概念として「質」があります。介護保険サービスの質の評価については、2006年度から厚生労働省の審議会で課題として挙げられていました。2009年度から「介護サービスの質の評価のあり方に係る検討委員会」を設置。2013年度には、国内外での質の評価に向けた先行的な取り組みについて検討。2014年度には、サービスの質の評価をしていくための心身機能に関するデータ項目案を作成しました。
そして、2015年度にはそのデータ項目案に基づいたデータを、介護老人保健施設と居宅介護支援事業所から収集。検証を行って、質の評価に必要なデータ項目案についての検討を深めています。こうして、サービスの質の評価は、今、制度化を目指して検討が進められています。
これまで介護報酬上、質の高さは、「介護職員のうち介護福祉士有資格者の占める割合」など、わかりやすく数値化できる指標で評価するしか方法がありませんでした。しかし、それが「質の高さ」の実態を表しているとは言い切れません。そこで、サービス介入前後の高齢者の心身機能に関する状態を継続的に把握し、モニタリングすることで、質の高さを評価する指標を作ることに。そして、本当に質の高い事業所とそうでない事業所を、利用者、サービス事業者など、誰の目にもはっきりとわかるようにしようと取り組んでいるのです。
介護保険が始まって15年たち、ようやくそうした評価指標が作られようとしているのは、遅すぎるという気もします。しかし、作るのであれば、介護現場がなるほどと納得できるものにしてほしいですね。検討中の質の評価の指標については、また別の機会に詳しく紹介したいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1介護職員 月給1万3170円増 処遇改善加算で(毎日新聞 2016年3月30日)