高齢者の支援をしていると、処方薬の多さに驚くことが多いのではないでしょうか。厚生労働省の調査に、調剤薬局で出される“薬の種類数”をまとめたデータがあります。それによると、75歳以上の高齢者の4人に1人が、1回の処方箋で7種類以上の薬を出されているとのこと。薬が正しく飲めていない、薬の効果が強く出すぎている、など、薬に関する様々な問題が起こるのは、処方薬が多すぎることも大きな原因のように思えます。
何を服用しているかは「お薬手帳」で把握
中でも問題になっているのは、重複処方や飲み合わせ。重複処方とは、同じ効能の薬が違う医療機関から同時に処方されること。飲み合わせとは、複数の薬を一緒に飲むことで効果が強く出すぎたり、反対に効果が弱まったりすることです。高齢者は高血圧や糖尿病など、いろいろな病気を持っていることが多く、受診先が複数になりがち。処方された薬は、受診先近くの薬局でそれぞれに受け取ることが多いようです。このため、薬を処方する医師も、薬を調剤する薬剤師も、その人が他にどんな薬を飲んでいるか、把握しきれないことが多いのです。
こうした事態を避けるために作られたのが、保険薬局(調剤薬局)でもらえる「お薬手帳」です。処方薬と一緒に渡されるシール状の「薬剤情報提供書」を貼ることで、処方された薬を記録できます。本来は、これを受診のたびに医師に見せて処方薬を調整してもらえば、重複服用も飲み合わせの問題もクリアできるはずです。ところが、このお薬手帳、まだ十分には機能していません。お薬手帳を活用する意識が患者側にも医師側にも、まだ十分定着していないからです。お薬手帳活用への意識が、より高まっていくことが期待されます。
高齢者の体調変化に気づけるのは介護職の専門性
一方で、医師は自分が行った治療や処方した薬の効果を確認したいという思いを常に持っています。薬をちゃんと服用できているか。気になる状態の変化はないか。医療と介護の連携の必要性が叫ばれているのは、こうした情報をスムーズにやりとりできる仕組みが必要だからです。
高齢者の体調の変化や服薬状況について、よく把握しているのは家族。そして、訪問介護のヘルパーやデイサービス、ショートステイなどの介護職です。介護職は高齢者と密に関わり、日々の生活をしっかり見守っています。“点”ではなく“線”で利用者を見ているのが、医療職との違い。だからこそ、ささいな変化に気づくことができます。そこが「介護職の専門性」の一つだと言えます。
そして、介護職と、医師や看護師、薬剤師などの医療職との橋渡しをするのがケアマネジャ-です。介護職から状態変化についての連絡を受けて、医療職にタイムリーに伝えていく役割を担っているのです。
よりよい治療、ケアの実現のために“介護と医療の連携”はある
その役割を果たしていくためには、介護と医療の連携の前に、介護職同士の連携も必要です。あるケアマネジャーは、日頃からヘルパーやデイサービス職員と利用者についての情報交換を密に行うことを心がけているといいます。そうすることで、関わるサービス事業者みんなで利用者をモニタリング(状態把握)し、変化に気づけるよう意識を高めているというのです。
たとえば、ケアマネジャーが、主治医や利用者・家族から、処方薬が変更になったという情報を得たとき。あるケアマネジャーは、その利用者を担当しているヘルパーやデイ職員に対して、「状態に変化があったときにはすぐに連絡してほしい」と依頼するといいます。
このとき、「なにかあったら連絡して」という漠然とした依頼はしません。「朝起きたときにふらつきが出たら」「失禁が増えたら」「怒りっぽくなったら」など、起こりうる状態の変化を具体的に伝えます。処方薬の変更で起こりうる状態変化については、医師や薬剤師から情報を得ておくのだと言います。そして、変化があったらすぐに連絡をくれるよう、頼んでおくのです。
こうした連携により、処方薬の変更によって状態に変化があれば、タイムリーに医師や薬剤師などに情報を伝えることができます。そして、その人にもっと適した処方にすぐに変更することができるのです。
患者を治療するのは医師ですが、医師だけで効果的な治療をすることはできません。薬剤師が薬の適否を薬学的知識から検討する。薬の影響を介護職がモニタリングする。それを集約して、ケアマネジャーが薬剤師や医師に伝え返していく。そうした連携による情報のやりとりができて始めて、効果的な治療やケアが実現できるのです。
介護と医療の連携、介護職同士の連携とはそのためにあります。そのことを、日頃から意識していたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>