“高齢化のトップランナー”である日本の介護に世界が注目
世界各国の中で、高齢化率のトップを走る日本。急速な高齢化にどう対応していくのか、世界は注目しています。
中でも、生活習慣やメンタリティに共通性の多いアジアの国々からの注目度は高く、インドネシアやタイ、中国などから、しばしば日本の高齢者施設に視察団が訪れています。
一方、日本の介護事業者の、アジアの国々、特に中国への進出も目立つようになりました(*)。中国、韓国、シンガポールなどは、今後、日本を上回るペースでの高齢化が予測されています。
また、中国では、一人っ子政策の影響で介護の担い手が不足することは確実。これまで大都市圏中心だった介護ニーズが、地方都市に拡大していることが記事でも紹介されています。
▼世界の高齢化率の推移
*内閣府「平成28年版高齢社会白書」より<クリックで拡大>
質の高い日本の介護は、アジア圏で高く評価されている
では、日本の介護は、中国などのアジア圏でどのように受け止められているのでしょうか。
介護保険制度開始後間もなくタイに現地法人を設立し、介護サービスを提供しているある介護事業者は、日本流の質の高い介護は、タイの中高所得層に高く評価されていると言います。
現地のサービスよりはるかに高い料金を設定しても、安定的に顧客が確保できているのです。それは現地職員を雇用後、丁寧に粘り強く教育・研修を行っているからです。
海外での教育・研修は、メンタリティが似ているとはいえ、国民性に違いがあり、難しいと言います。
たとえば、この企業は中国に進出後、「きれいにする」という概念に開きがあることを感じたといいます。日本では、床を掃いたり、テーブルや家具の上を拭いたりして「きれいに」しますが、中国ではものを片付ければ、それで「きれいに」したと考えます。
言葉では意図が伝わらないことから、日本人インストラクターは研修中の中国人介護士と部屋を半分ずつ掃除し、違いを見てもらうなどのやり方で理解を促したそうです。
国として「日本の介護」をアジア諸国に売り込んでほしい
また、アジア全般で、高齢者の尊厳に対する意識もまだ高くはないとのこと。その点も、日本の介護が先んじていると言えます。
この事業者が中国の都市部で開設した、認知症対応の小規模入所施設では、日本流の認知症介護が高く評価されています。
開設したのは、尖閣諸島問題で日中関係が最悪の状況だった2012年。それでも、評判を聞きつけ、あっという間に満床に。これでこの事業者は、中国での介護ビジネスの展開に自信を得たと言います。
介護保険制度が始まって以来、日本の介護技術は急速に進化しました。認知症ケア、自立支援型のリハビリ、介護用品、介護ロボットなど、日本には誇るべき介護技術、ノウハウ、商品がたくさんあります。
個々の事業者による海外展開もよいのですが、今後は、国家戦略として、日本の介護をアジア諸国に売り込んでほしいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*中国介護、生きる日本式 「課題先進国」の知恵学ぶ(日本経済新聞 2017年7月20日)