2015年度の介護報酬改定では、改定率がマイナス2.27%。2003年度報酬改定のマイナス2.3%に次ぐ、大幅引き下げでしたよね。この影響もあってか、東京商工リサーチによれば、2015年1月から9月の「老人福祉・介護事業」の倒産は、57件にのぼりました。この倒産件数は2000年の介護保険法施行以降では、過去最悪のペースです(*)。中でも、従業員数5人未満の事業所が38件と、19件だった昨年同時期から倍増。倒産全体の約7割を小規模事業所が占めています。
小規模事業者は人材育成でもハンデが
3年ごとの介護報酬の改定、介護保険法改正を見てみると、規模が大きい方が介護サービス事業を運営しやすいようにする意図は明らかです。しかし、介護事業者の大半を占めているのは小規模事業者。小規模事業者は経営を安定させるのに苦労する上に、人材育成においても難しさがあることがよく指摘されています。
デイだけ、訪問介護だけ、居宅介護支援だけなど、小規模事業者には一つの事業だけを運営しているところが少なくありません。そのため、複数の事業を持つ大規模事業者に比べて、人材育成の面でもハンデがあります。いろいろな事業を経験させて多様なスキルを身につけさせ、育成していくという体制が取りにくいからです。
こうしたことは、厚生労働省の審議会でも課題として取り上げられました。人材育成に限らず、事業者間で連携して事業運営できる仕組みをつくっていくことが必要だというのです。
中小事業者同士の連携で大規模事業者に対抗
「横浜みなと介護福祉事業協同組合」設立記念式典の様子(2015年12月10日 横浜ロイヤルパークホテル)
そんな声に応える事業者の動きが少しずつ出てきています。
神奈川県横浜市では、2015年12月、市内の中堅中小事業者が「横浜みなと介護福祉事業協同組合」を設立。組合として、人材の確保・育成、経営の効率化、情報収集力の強化、コスト削減などを図っていこうとしています。中堅中小事業者が連帯することで、大規模事業者に対抗できる力を付けようというわけです。
たとえば、介護職員養成講座を開催する。重要なテーマについての研修を共同で行う。社内の人事ローテーションのように、組合参加事業者間で人事交流をしながら、人材を育成していく体制を作る。そんな取り組みが検討されています。
組合内の人事ローテーションとは、A社の訪問介護事業所のヘルパーが、B社の通所介護事業所やC社の短期入所事業所に異動。様々な事業、職場を経験しながらステップアップしていける仕組みを作ろうということです。
地域の高齢者を支える地域包括ケアは、事業者同士の連携とレベルアップがあってこそ実現できるもの。これからはこの組合のように、人材育成や経営を安定させる仕組み作りを、地域の事業者全体で考えていくことが必要になっていくのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*2015年1-9月「老人福祉・介護事業」の倒産状況(東京商工リサーチ 2015年10月8日公表)