人生の最終段階の医療等について話し合う「人生会議」
認知症などにより、意思決定が難しくなったときのために、あらかじめ受けたい医療や介護、延命処置などについて、家族や医療職、介護職と話し合って決めておく「
アドバンスト・ケア・プランニング(ACP)」。
厚生労働省はACPを「
人生会議」と名付け、国民への普及を図っています。
しかし、お笑い芸人を起用した啓発ポスターが批判を浴び、公開を取りやめにするなど、一般への普及活動は順調とは言えません。
2017年12月に厚生労働省が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、人生の最終段階における医療・療養について、これまで考えたことがある人は
一般国民では59.3%。
これに対して、
介護職員は79.9%が考えたことがあると回答しています。
人生の最終段階における医療について、家族等や医療介護関係者と話し合ったことがあるかを尋ねた問いでは、一般国民は55.1%が「全く話し合ったことがない」と回答。
介護職員でも、47.1%が「全く話し合ったことがない」と回答しました。
考えたことはあっても、具体的に家族と話し合うには至っていない人が、介護職でも多いのですね。
「人生の最期」を話すのに抵抗がある?それとも、必要性がない?
では、なぜ『人生の最終段階の医療』について、話し合っていないのでしょうか。
「話し合ったことはない」と回答した人にその理由を尋ねると、「話し合うきっかけがなかったから」という回答が、一般国民では56.0%。これが、医師では65.2%、看護師では67.6%、介護職員では69.6%と、専門職の方が多くなっています。
この結果を見ると、一般国民より「死」を身近に感じている専門職のほうが、改めて人生の最終段階を話題にすることに抵抗があるのかと感じます。
ところが、どうやらそうとも言い切れません。
「話し合う必要性を感じないから」という回答を見ると、一般国民では27.4%なのに、看護師で31.7%、医師と介護職員で36.4%と、こちらも一般国民より専門職の方が多いのです。
「話し合う必要性を感じない」から、「話し合うきっかけがない」、あるいは、話し合うきっかけをつくろうとしないのでしょうか。
思い通りの最期を迎えたい介護職。話し合うための知識がない一般国民
先日、ある勉強会で一人の医師が人生の最終段階での選択について、
「家族がなんと言おうと、本人の意思が第一。家族が反対しても本人の意思を大切にし、その実現をサポートする」
と話していました。
これは医師として患者の選択をサポートする、という話ですが、もしかすると専門職の方が周囲の話を聞くまでもなく、自分の意思が固まっており、それを貫くという気持ちが強いのかも知れません。
というのも、厚生労働省の調査で、自分が意思決定できなくなったときに備えて、どのような医療・療養を受けたいか、あるいは受けたくないかなどを記載した書面(事前指示書)をあらかじめ作成しておくことについては、賛成する人が、一般国民では66.0%なのに対し、医師は71.1%、看護師は78.4%、介護職員は76.0%と、多くの専門職が賛成しているからです。
専門職の方が、自分の意思に従った最期を望む気持ちが強いのですね。
とはいえ、事前指示書の作成に賛成しているものの、そのうち、実際に作成しているのは、一般国民が8.1%なのに対し、医師は6.0%、看護師は3.7%、介護職員は2.7%と、専門職の方が少ないという有様なのですが……。
また、話し合っていない理由について、一般国民の場合、「知識がないため、何を話し合っていいのか分からないから」という回答が27.4%を占めます。
介護職員では、この回答は2.4%しかありません。
人生の最終段階における医療についての知識の有無は、話し合いへのモチベーションを左右すると言えそうです。
介護職・医療職も知らない?!アドバンスト・ケア・プランニングの今後
アドバンスト・ケア・プランニング(ACP)については、2017年12月に実施された厚生労働省の調査では、「知らない」という回答が、一般国民で75.5%。
医師は41.6%、看護師は42.5%、介護職員は51.6%と、専門職でも半数近くが「(ACPについて)知らない」という回答でした。
その後、専門職の間では急速に理解が進んでいったと思いますが、一般国民の理解はまだこれから。
いまは、ACPの普及を後押しするために、「もしもの場合」について話し合う「もしバナゲーム」などのツールも開発されています(*)。
「もしバナゲーム」とは、人生の最終段階で何を大切にしたいか、「家で最期を迎える」「私の思いを聞いてくれる人がいる」などのキーワードが書かれた36枚のカードを使い、
自分自身にとって何が大切かを考え、選び取っていくカードゲームです。
人の「死」は、死にゆくその人だけのものではなく、周囲の人にとっても重大な問題です。
にもかかわらず、「死」を自分だけのものと考えてこの世を去れば、遺された周囲の人たちのこころに傷を残す恐れもあります。
こうしたツールも活用しながら、「人生の最終段階」をいまの自分と切り離さず、周囲の人と共有しながら、望ましい選択をしていくこと。
それは介護職自身においても、介護職が支えている利用者においても、必要なことではないでしょうか。
自分自身の最期のことも、避けずに考え、家族など周囲の人たちと話し合うこと。
そして、人生の最終段階についての知識が足りないと感じている利用者に、必要な知識や情報を提供していくこと。
介護職の皆さんにはどちらも大切にしてほしいと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*もしもの前に「人生会議」(毎日新聞 2019年12月20日)