高齢者も障害者も利用できる「共生型サービス」誕生へ
2016年9月、厚生労働省は、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイにおいて、障害福祉サービスと介護保険サービスを相互乗り入れさせる方針を固めました(*)。2018年度から、障害福祉サービス、介護保険サービスのどちらかの基準を満たせば、両方の指定を受けられる「共生型サービス」という区分が新設されることになったのです。
現在、障害福祉サービスを利用している障害者は、介護保険の被保険者になったら、介護保険サービスを優先的に利用することとされています。状態は何も変わらなくても年齢で分断され、慣れている障害福祉サービスから介護保険のサービスに切り替えなくてはならないのです。いわば、行政の縦割りの弊害。これが障害者にとって大きな負担になるため、制度を改正することになりました。
制度改正により誕生する「共生型サービス」では、介護が必要な高齢者も障害者もケアするようになります。これは、特に長年、障害福祉サービスを利用してきた人にとっては、歳を重ねても同じサービスを利用し続けられるという点でメリットがあります。デイサービスやショートステイでは、同じ場で障害者と高齢者が共に過ごすことになるわけです。それは利用する障害者、高齢者にとって、どんなメリットがあるでしょうか。
役割を固定しない“持ちつ持たれつ”の関係の良さ
「共生型サービス」発祥の地、富山県にある「富山型デイサービス」管理者は、多様な人が共に過ごすことのメリットについて、こんな話をしています。ちなみに、「富山型デイサービス」とは、今度の制度改正でつくられる共生型の上を行くサービス。高齢者、障害者だけでなく、子どもも含め、誰でも受け入れているデイサービスです。
「障害者や子どもや高齢者、いろんな人が同じ場で過ごしていると、障害者が子どもにおやつを食べさせることもありますし、認知症を持つ人がお客さんを出迎えてお茶を出すこともあります。みんながそれぞれ自分のできることをするから、役割が固定しないんです。いつも世話をされるばかりでなく、世話をする側にもなる。“持ちつ持たれつ”になれるのが、共生型のいいところです」
多様な人が集う場とは反対に、認知症を持つ人や障害を持つ人ばかりを集めれば、世話をする人・される人という役割が固定してしまいがちです。一方的にただ世話を受けるだけの存在になる。それは、本人にとって幸せなことなのか、考えさせられますね。
共生型社会では、懐深く見守る胆力が求められる
ただ、一方で、多様な関係が生まれる「共生型サービス」は、それだけ関係が複雑化し、様々な問題が生まれる可能性もあります。寝たきりの高齢者のことを、走り回る子どもが踏みつけてしまうかもしれません。大きな音が苦手な発達障害の子どもが、衝動を抑えられない前頭側頭型認知症を持つ高齢者の出す大声にパニックを起こすかもしれません。
しかし実のところ、現実の生活とはそんなもの。もちろん、心身が大きく傷つくようなことは避けなくてはなりませんが、様々な人が時にはぶつかり合い、それでも何とか折り合いを付けて暮らしているものです。ぶつかり合えば、けんかになることもありますし、時には傷つくかもしれません。しかし、ぶつかり合い自体をすべて回避しなくてはならないと考えるのが正しいのかどうか。ケアする側は考えてみる必要があります。
現在、推進されている「地域包括ケア」で目指す最終形は、障害者も子どもも含め、すべての人が共に支え合い、暮らしていける「共生社会」です。これからの支援においては、利用者同士が泣いたり笑ったりする姿を、安全を確保しながら懐深く見守っていく「胆力」が求められるのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
●こちらの記事も参考に
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*介護保険 障害施設も対象 障害持つ高齢者、厚労省検討(日本経済新聞 2016年9月13日)