長期化した「引きこもり問題」が親世代の高齢化で深刻化
「8050問題」をご存じでしょうか。
1980年代に顕在化した「引きこもり」が長期化。30年以上たち、50歳を超えた子を80代の親が支えているという問題です(*)。
在宅の支援をしている介護職の方であれば、この「8050問題」を抱えた家庭を担当したことがあるかもしれません。介護職の方にとっても見過ごせない問題です。
1980年代に顕在化した引きこもりは、長い間、「若者」の問題と見なされてきました。内閣府が行ってきた、引きこもりの実態把握のための「若者の生活に関する調査」も、対象年齢は15~39歳まで。
2016年の調査では、15~39歳の年齢層だけでも、全国で約54万人が引きこもり状態にあるという推計が示されています。
さらに近年、各地の自治体の調査によって明らかになったのは、引きこもりの当事者には40歳以上が40歳未満の同数以上いることです。
これを受けて、政府も2018年度、40~64歳を対象とした引きこもりの実態把握調査を実施中です。
支援が遅れがちな「引きこもり」。その原因は?
2009年からは、引きこもりの人の支援のため、都道府県や指定都市に「ひきこもり地域支援センター」の設置が進められてきました。
しかし、前述の15~39歳を対象とした「若者の生活に関する調査」では、引きこもっている本人は、引きこもりの状態について関係機関に相談したいと思うかという問いに、65.3%が「思わない」との回答。
家族も、63.5%がこれまでに関係機関に相談したことは「ない」と答えています。
本人も家族も、引きこもりの状態について、自発的に相談機関に出向く意欲が乏しいのです。
そのため、引きこもりの問題があることに周囲が気づかず、介入ができないまま長期化し、事態が深刻化しているとも言えます。
隣接分野の施策や支援機関について知っておくことが重要
こうして長期化した引きこもりの問題に、親の要介護をきっかけに支援が入るケースは少なくありません。「ひきこもり地域支援センター」では、必要に応じて訪問支援も行っていますが、当事者や家族が相談に出向かなければ、そもそも支援を必要としている人を見つけ出すことができません。
その点、ケアマネジャーやホームヘルパーなど在宅介護の専門職は、定期的に自宅に入るため、引きこもりの問題があることに気づくチャンスがあります。
時には、子の引きこもり問題が、要介護者への支援の妨げになることもあります。経済的な問題を抱えている家庭では、子の将来を心配する親が、自分自身の介護費用を節約しようとすることもあるからです。
介護の問題に加え、引きこもりの子の問題、さらに経済的問題や、子から親に対する暴力の問題、子の引きこもりの原因が精神疾患である場合など、その家庭が多くの問題を抱えていることもあります。問題が多いと、他の支援機関と連携し、役割分担をしながら家庭全体への支援を行うことが求められる場合もあります。
家族の力が弱まり、地縁も薄くなっている今、こうした多くの問題を抱えた家庭は増えつつあります。
介護職も、高齢者への支援だけでなく、こうした問題を抱えた家庭に関わり、支援者の一員として動くことが増えていくかもしれません。これからの在宅支援では、高齢者分野だけでなく、隣接分野の施策や支援機関についても、これまで以上に詳しく知っておくことが大切になっていきそうです。
<文:社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター 宮下公美子>
*支援手探り8050問題 ひきこもり、年取る親子(毎日新聞 2019年1月26日)