多くの問題を一度に対応可能な、ワンストップ窓口整備へ
団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
筆者が地域包括ケアについて、2015年に解説した記事(
いまさら聞けない…「地域包括ケア」ってどういうこと?)には、「その目標は、高齢者だけでなく障がい者や子育て家庭、生活困窮者など、さまざまな支援ニーズを持つ人を含む地域住民が、互いに支え合えるようにしていくこと」と書きました。
それから2年弱。その目標の実現に向けて、厚生労働省が動き始めました。2017年から、介護や育児、貧困など、様々な問題に対応できるワンストップ窓口の整備に取りかかるというのです(*)。
介護保険が始まってもう17年がたとうとしています。
十分ではないにせよ、支援が必要な人を支える仕組みとしては、今は高齢者分野がもっとも進んでいると言えます。しかし、地域で支援を必要としているのは高齢者だけではありません。
むしろ、在宅で暮らす高齢者への支援が進められていくにつれ、複数の複雑な問題を同時に抱えた家族の存在がクローズアップされるようになってきました。
未婚で精神疾患のある息子が、親への介護サービスを拒否している家庭。経済的困窮で、必要な介護サービスを十分に利用できない家庭。若年性認知症の親を介護する同居の娘が、育児とのダブルケアで鬱状態になっている家庭――。
そんな様々な問題を複数抱えた家庭の支援は、ケアマネジャーや地域包括支援センターだけでは対応が困難です。そこで、今、必要な支援に一度につなげられるワンストップ窓口がつくられようとしているのです。
行政サービスが縦割りの理由とは?
そこに立ち寄れば、様々な問題を一度に相談できるワンストップ窓口。住民にとっては便利な存在なはずですが、なぜこれまでつくられなかったのでしょうか。
ある自治体職員は、「厚生労働省の内部が縦割りになっているからだ」と言います。
医療関係の通達や補助金は厚生労働省の医政局から自治体の医療関係の部署に、介護関係は老健局から自治体の介護関係の部署に降りてきます。
厚生労働省の予算がそれぞれの部局で別々に確保されているために、部局ごとに動くことが慣例化してしまっているのです。
別々に降りてきた通達や補助金に従って動く自治体の中では、横の連携がなければ、似たような施策が複数の部署でバラバラに動くこともあります。
また、医療と介護について言えば、圏域内にどれぐらいの病院ベッド数を整備するかなど医療関係の施策は都道府県が立案することとされています。
これに対して、介護保険や介護予防のサービス整備といった介護関係の施策は市町村が立案します。
つまり、住民にとってより身近な行政である市町村が、介護と医療の両方をうまく連動させながら整備していくのは非常に難しかったのです。ここにも、行政サービスが縦割りになってしまう原因がありました。
2015年から徐々に市町村では医療介護連携が
これが少しずつ変わってきたのは、2015年に「医療・介護総合推進法」が成立してからです。市町村が立案する介護保険事業計画に、医療と介護の連携について盛り込むことが求められたのです。
これにより、医療と介護の連携を推進していく部署が市町村につくられるようになり、徐々に横の連携が図られるようになってきています。
2017年度から設置が始まるワンストップ窓口は、こうした施策の延長線上にあると考えられます。
しかし、自治体の部署間の連携が図られているかどうかは、自治体の意識によって大きく異なります。窓口だけをつくり、部署間の連携が図られなければ、その窓口が孤立し、相談者と行政サービスの間に立って苦労を背負い込むことになりかねません。
窓口整備と共に、部署間の風通しをよくしていくことが重要です。
複数の問題を抱える家族の相談が持ちかけられたとき、自治体に部署横断のサポートチームが立ち上がる。そこに医療、介護の専門職が加わり、フラットなチームで実際の支援に当たる。
そんな体制ができてこそ、本当の地域包括ケアが進み、地域共生社会がつくられていくのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*厚労省 貧困、育児、介護などワンストップ 窓口全国100カ所、新年度から整備(毎日新聞 2017年2月22日)