介護職の給与は、処遇改善加算で徐々にアップ?
相変わらず担い手不足が続く介護の仕事。
景気がよくなると介護職の求人倍率が高くなるといわれます。景気が回復基調にある今、介護業界は相変わらず求人難が続いています。
他業界に比べて給与水準が低いといわれている介護業界。しかし、介護報酬に「介護職員処遇改善加算」が位置づけられてからは、業界全体で見れば、少しずつ給与が上がっています。
※社会保障審議会介護給付費分科会第131回(H28.10.12)資料5「介護人材の処遇改善について」より
また、給与以外の部分での処遇改善も少しずつ進んでいます。たとえば、資格取得や外部研修参加の支援、心と体の健康管理の強化、非正規職員から正規職員への転換などです。
2017年6月には、制度面を充実させ、介護人材を確保しようとしている介護サービス大手の取り組みが、新聞でも紹介されました(*)。紹介されていた取り組みは以下の4つです。
・時短勤務の対象を拡大する
・職員向けの保育所を自社で開設する
・自社内で介護福祉士資格取得のための介護職員実務者研修を実施する
・「eラーニング研修受講+試験合格」を昇進の条件とするなど、昇進を「見える化」する
介護業界は他業界より基本給が低い?
厚生労働省によれば、介護職員処遇改善加算を取得した事業所の介護職員の平均給与額は、28万9780円(平成2016年9月)。
一方、介護労働安定センターによる2016年度の調査で見てみると、介護職員の所定内賃金は19万8675円、訪問介護員(ホームヘルパー)は19万1751円となっています。
厚生労働省と介護労働安定センターが公表した額ではかなり違いますが、これは下記のような定義の違いによるものです。「介護職の給与が低い」というとき、この2つが混同され、比較されていることもあるのかもしれません。
厚生労働省の「平均給与額」 |
基本給+手当+ボーナス(4~9月支給額の1/6) |
介護労働安定センターの
「所定内賃金」 |
基本給の他、通勤手当、家族手当など。残業手当や夜勤手当は含まない |
2016年の毎月勤労統計調査によれば、調査産業全体の平均の「現金給与総額」は、31万3801円、「所定内給与額」は23万9651円。
介護職の平均給与額と比べると、総額、所定内給与・賃金ともに3万円程度の差があります。つまり、介護職は他の産業に比べて基本給の水準が低いと考えられます。
基本給の水準が低い理由は何か
介護職の基本給の水準が低いのには、2つの理由が考えられます。
1つは、勤続年数が短い人が多いこと。最近でこそ、新卒者採用に力を入れ、定期採用する法人が少しずつ増えてきていますが、介護業界では長く中途採用が中心でした。
流動性の高い業界で、離職率は16.5%。離職者のうち1年未満での離職が4割を占めています。これではなかなか給与水準は上がりません。
もう一つには、そもそも介護は女性が多い職場だということ。毎月勤労統計調査を見ても、男女で給与には差があります。
そして、一般に女性が多い職場の場合、たとえば保育士なども給与水準が低いことが指摘されています。
※平成27年「毎月勤労統計調査」より
しかし、同じように女性が多い職場ながら一定の給与水準を確保している職種として、看護師があります。看護師は、明治時代に日本赤十字社が養成を始めており、専門職としての長い歴史を持っています。
一方、社会福祉士及び介護福祉士法が制定され、介護職の国家資格が誕生したのは1987年のこと。もちろん、介護の仕事はそれ以前から、ホームヘルパーの前身である「家庭養護婦」「家庭奉仕員」などがありました、
しかし、専門教育が始まったのは、介護福祉士が誕生してからと言ってよいと思います。
看護に比べると、介護はまだ歴史が浅いのです。専門性に見合う評価が得られるようになるのは、これからなのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*介護の担い手、制度で確保(日本経済新聞 2017年6月17日)