特別養護老人ホーム(特養)の入所要件が要介護3以上に引き上げられたのは、2015年4月から。
これは、もともと特養入所者には、要介護1、2の人が1割強しかいないことが調査で明らかになっていたことなどから、導入された要件です。
しかし今年5月、この制度改正後、特養の2割に空きが出ていること、要介護3でも受け入れが敬遠されていることが、「国の制限『意味ない』」という大見出しとともに報じられました(*1、2)。
要介護3でも特養に入所できない理由は
「意味ない」とまでいわれているのは、一つには、制度改正前から、地方の特養を中心に、空きが出始めていたからです。高齢化がピークを過ぎた地方では、高齢者が減り始め、入所待機者がいないところも出てきています。
介護保険政策は財源不足から、施設、在宅とも、徐々に中重度者へと対象者の絞り込みを進めています。
しかし特養に関しては、わざわざ要介護3以上という制限を付けなくても、地域によっては入所者が減っていく状況にあるということです。全国一律にこの要件を付けたことへの批判の声が上がっています。
もう一つには、「日常生活継続支援加算」の加算要件が裏目に出てしまったことがあります。いくつかある要件の中に、「新規入所者の7割以上が要介護4、5」という要件があります。
この要件を満たそうとすると、要介護3の人は敬遠したくなるかもしれません。
こうした加算要件を設定した政策意図としては、ケアが困難な中重度者を積極的に受け入れている施設、事業所の努力を評価し、加算を付けて報いたい、ということでしょう。
全ての施設、事業所が、こうした政策意図を汲んで、良心的に運営してくれることが理想です。しかし、残念ながらいつも要件を逆手にとって、加算算定目的で入所者を選別する施設、事業者が出てしまいます。
「在宅ケアが困難な人を“積極的に受け入れた結果として”要介護4、5が多い」と、「入所者を“選別して”要介護4、5が多い」では、意味合いが違います。
しかし、算定の際にそれを区別するのは困難です。
特養入所者の状態改善は、誰にも歓迎されない?
要介護3の人が敬遠されているもう一つの理由は、入所後の要介護認定で要介護2になる可能性を考慮してのことです。
リハビリを行って状態が改善し、要介護2の認定を受けると、退所してもらわなくてはなりません。これは施設にとっても利用者にとっても、大きな負担です。
そのため、最初から要介護3の人の入所は後回しにするという判断が働いてしまうことがあるのでしょう。
また、これはすでに入所している人に対しても、リハビリを行い、要介護度を改善させる方向にインセンティブが働かないという問題もあります。本来、状態が改善するのは喜ばしいことなのに、実に残念なことです。
ただ、「終の棲家」と言われる特養ですが、決して生涯住み続けなくてはならない場ではありません。
心身の状態が良くなったら退所して在宅で暮らし、悪化したらまた入所してもらう。そんな使い方をしても問題はないのです。
利用者にも施設側にも入退所を繰り返すことは負担が大きく、今はまだ現実的とは言えません。
しかし、今後はおそらく特養に空きが出るのは当たり前、という時代がやってきます。そのときには、入所者側も施設側も、そのように意識を変えていく必要があるのかもしれません。
●こちらの記事も参考に
→特養の26%に空きがある!?待機者が大幅に減少した、特養の未来は?
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 要介護3 受け入れ敬遠 特養、2割以上に空き(毎日新聞 2017年5月5日)
*2 特養、受け入れ敬遠 国の制限「意味ない」(毎日新聞 2017年5月5日)