唾液の分泌減少で、高齢者には様々な問題が起きる
口の中がパサパサしている。
むせやすい。
食べこぼしがふえた。
介護の現場で利用者のそんな様子が目につくようになったら、口の老化が進んできたサインです。
口の中のパサパサは唾液腺が萎縮して、唾液の分泌量が減ってきたことが原因です。
唾液が減ると、口の中ではいろいろな不具合が起きてきます。
第一に、虫歯になりやすくなります。
これは唾液が減ることで、歯の表面を保護したり、虫歯菌が出す酸を洗い流したりという唾液の働きが期待できなくなるからです。
また、抗菌作用や、細菌を口から取り除く力を持つ唾液が減ることで、歯周病菌が繁殖し、歯周病が悪化しやすくなります。
このほか、義歯(入れ歯)が安定しにくくなったり、合わなくなったりすることもあります。
口の中が乾いているため、粘膜に傷がつきやすくなり、そこから口内炎になることもふえます。
唾液が減るのは、本人にとってよくないことばかりなのですね。
出にくくなった唾液を、十分分泌させるには、唾液腺のマッサージが有効です(*1)。
唾液腺は口の中に、以下の3つがあります。
耳下腺(じかせん):耳たぶの前方、上の奥歯のあたりのほほ
顎下腺(がっかせん):顎の骨の内側
舌下腺(ぜっかせん):舌の付け根の真下あたり
食事の前に唾液腺をマッサージして刺激すると、唾液が分泌され、飲み込みやすくなります。
唾液が少ないと感じる利用者がいたら、介護職は唾液腺のマッサージを検討してみるといいかもしれません。
嚥下を促すアイスマッサージと黒こしょうのにおい
唾液は、かんだ食べ物を口の中で適度にしめらせます。
噛み砕かれた食べ物は湿り気を帯びて、舌で口の中を右や左に動かされながら、次第に食べやすい形(食塊)にまとまっていきます。
咀嚼とは、単に食べ物をかむことを言うのではなく、こうして食べやすいよう食塊にまとめていくことまでを言うのです。
しかし唾液の分泌が少ないと口の中がぱさつき、かんだ食べ物が口の粘膜に張り付いて、食べ物を動かしにくくなります。
唾液が、口の中で果たしている役割は大きいのです。
唾液と混ざって適度な湿り気を持った食塊は、のどを通って食道へと進んでいきます。
これが嚥下ですね。
しかし、咀嚼はできているのに、なかなかゴックンと飲み込まない人もいます。
嚥下反射が起きにくくなっていることが考えられます。
嚥下反射を促すには、のどの「アイスマッサージ」が有効だと言われています(*2)。
これは、水に浸して凍らせた綿棒などで舌の奥の方などを刺激して、嚥下反射を起こさせるというものです。
とはいえ、のどの奥の方にまで無理をして触れようとすると危険ですから、看護師と相談しながら、無理のない範囲でやってみるとよいでしょう。
また、黒こしょうのにおいは、脳に刺激を与え、嚥下反射を改善すると言われています。
パッチタイプの黒こしょう芳香シートを襟元に貼ることで、嚥下が改善する場合があるのです。
食事の時だけでなく、夜も襟元に貼っておくことで、寝ている間の唾液の誤嚥を防ぐことができるとも言われています。
口から食べ、よく噛み、しっかりと飲み込むことができれば、健康を維持しやすくなります。
そのために、マッサージなど、介護職としてできるケアをし、高齢者が最期まで口から食べられるように支援したいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 だ液腺マッサージ(はじめよう!やってみよう!口腔ケア)
*2 アイスマッサージのやり方(一般財団法人 日本訪問歯科協会)