高齢者を支えるはずの「福祉避難所」。十分な活用は、まだ?
地震や豪雨などの災害が起きるたび、高齢者や障がい者、乳幼児など、配慮を必要とする人たちの避難先である「福祉避難所」が、十分、機能していないことが話題になります。
2018年7月、広島県や岡山県に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨(西日本豪雨)でも、やはりまた福祉避難所が活用されていない実態が明らかになりました(*)。
福祉避難所は、阪神・淡路大震災のあと「事前指定」の必要性が指摘されていたものの、その規定がないまま東日本大震災が発生。福祉避難所の開設が遅れただけでなく、どの被災者を福祉避難所に避難させるか、どのような移動手段で避難させるか、支え手をどのように確保するかなど、様々な課題が改めて浮き彫りになりました。
その後、2008年に「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」が作成され、これがさらに「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」として2016年に改定されました。
新しいガイドラインは、「平時における取り組み」「災害時における取り組み」が記されています。「平時における取り組み」では、以下のようなことがわかりやすく書かれています。
・福祉避難所の対象者の把握
・地域の特別養護老人ホーム、公共・民間の宿泊施設など福祉避難所候補の把握
・福祉避難所の指定、周知
・介護用品や飲料水、携帯トイレなどの物資・機材の確保
・支援人材の確保
・移送手段の確保
・医療との連携
・事前の訓練 など
これは、いわば、災害が起こる前に何をすべきかのチェックリスト。平時に何をしておくべきかは、この「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を見れば明らかです。国は、このガイドラインをもとに、自治体それぞれに独自のガイドラインやマニュアルを作成することを期待しています。
しかし、対応が進んでいる自治体とそうでない自治体の格差が大きいといいます。なかなか国が期待するような備えが進んでいかないのが実態のようです。
介護施設は地域住民の安全を守り、地域住民は介護施設の防災の手助けを
一方で、介護施設、事業者は、自然災害だけでなく火事などの人為災害にも、備えておく必要があります。
介護施設で夜間に火災が発生したとき、夜勤の職員しかいない施設から、入所者全員を救出するのは困難です。地域住民の力を借りる必要がありますが、そのためには、日頃から協力してもらえる関係を築いておくことが大切です。
ある特別養護老人ホームでは、そうした事態を想定し、地元住民と地域防災協定を結んでいます。協定は以下のような内容です。
・施設で、夜間など職員が少ない時間帯に火災が発生した場合は、地元自治会が入所者・利用者の避難や見守り活動に協力する。
・地震などの自然災害で、火災や家屋の倒壊が発生した場合は、施設職員が消火や救出活動に協力。一時的な避難生活の場を提供する。
・地元自治会から要請があった際は、施設のAED(自動体外式除細動器)を貸し出す。
地域と良い関係を築き、こうした協定を結べるのは望ましいことです。しかし、協定を結べばそれで安心というわけではありません。
むしろ、地域住民が気軽に施設に足を運び、施設の入所者や職員も地域に出掛けていく。協定を結ばなくても、日頃からふれあい、互いに気遣い合える関係が築けている方がよいのかもしれません。
ある小規模多機能型居宅介護の事業所は、敷地を囲う塀をなくし、通勤、通学する住民が敷地内を自由に通れるようにしました。
事業所の一角に駄菓子屋をつくり、マンガ本を置いたことで、学校の行き帰りに子どもたちが立ち寄るようになりました。誰でも参加できる、流しそうめんの会や草団子を作る会などのイベントを催すと、子どもたちの親も顔を出すようになりました。
利用者は、時折、ほうきを持って地域の公園の掃除に行きます。すると、住民から「いつもありがとう」と声をかけられる。いつしか、そんな関係ができていました。
住民とこうした関係にあるこの事業所は、例えば地震で家が倒壊した地域住民がいれば、当然のように、避難場所として住民を受け入れるでしょう。反対に、この事業所が火事に見舞われたら、地域の住民は心配し、「おじいちゃん、おばあちゃんは大丈夫か」と駆けつけてくれるのではないでしょうか。
長い時間を掛けて築いてきた住民との心地よいつながり。それは、ガイドラインやマニュアルのような形式的なものを、はるかに超える力を発揮するのではないかと思うのです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*西日本豪雨 福祉避難所の利用進まず…告知不足か(産経WEST 2018年7月14日)