高齢者の「買い物難民」が都会でも増加中
住まいの近くに食料品の買い物ができる店がなく、不便を来している65歳以上の高齢者、いわゆる「買い物難民」。
2015年時点で、「買い物難民」は全国で824万人にも上るとの推計が、農林水産省から示されました(*)。しかも、都市部で特に増加率が高く、2010年と比べて23.1%も増えているというのです。
不便を来している人が「増えている」ということは、都市部においても、食料品を買える近隣の商店が減っていると言えそうです。
近隣の商店がなくなれば、毎日のように自分自身で行くことができていた買い物に行かれなくなる人もいるでしょう。
例えば、家族が車で連れて行ってくれる週末しか買い物に行かれなくなる。買い物は、家族が代わりに行うようになる。それで用は足せるかもしれませんが、買い物自体が楽しみという人も多いはずです。
また、自分で商品を見て選ぶことは、脳への刺激になり、認知機能の低下を防ぐことにも役立つと言われています。
ものが手に入ればそれでよし、とは言えないと思うのです。
デイサービスに移動販売車。買い物で高齢者にも「役割」を持ってもらう
そこで、介護事業者の中には、買い物難民となった高齢者をサポートする取り組みを実施しているところもあります。
例えば、月1回など、定期的に大型ショッピングセンターまでの無料送迎バスを運行する方法。近隣の住民に声をかけ、希望者を募って送迎を行うのです。
実施している事業者の話は複数耳にしていますが、どこも好評のよう。毎月楽しみにしているという住民もいるそうです。
そもそも、事業者には収益にならなくても、近隣住民を支え、見守るために実施しているというのがいいですね。
また、スーパーマーケットと提携し、同一法人が運営する複数のデイサービスに移動販売車を巡回させている事業者もあります。
デイサービスの利用者は、お金と、時には家族から頼まれた買い物メモを持参し、移動販売車を利用して自分自身で商品を品定めして購入します。
この事業者は、買い物という「役割」を再び担ってもらうことで、要支援・要介護になった高齢者に心身ともに元気を取り戻してほしいと考え、この取り組みを行っているそうです。
デイサービスで移動販売車を実際に利用している高齢者に話を聞くと、「自分で商品を選べるのがいい」「重いものを買っても、デイサービスの送迎車で自宅まで送ってもらえるので楽ちん」など、とても喜ばれていることがわかります。
移動販売車では生鮮食料品も販売しており、買ったものはデイサービスの大型冷蔵庫で帰りまで冷蔵保存してくれるという、至れり尽くせりぶりです。
地域との連携で広がる、高齢者の買い物支援の方法
ここまで大がかりでなくても、デイサービスや小規模多機能型居宅介護の活動として、近隣の店への買い物を取り入れているところは少なくありません。
確かに、送迎車のあるデイサービスや小規模多機能型居宅介護の施設から買い物に行けば、帰りに家まで送ってもらえるので、持ち帰れる重さかどうかを心配せずに買い物を楽しめます。
地域包括ケアの時代、介護事業者だけで高齢者を支えるのではなく、スーパーマーケットなどとの連携によってできる、困っている高齢者へのサポートもあるということです。
まずは、買い物難民へのサポートとして、介護職ができること。他にどんなことがありうるのか、考えてみるのもいいかもしれません。
<文:宮下公美子 (臨床心理士・社会福祉士・介護福祉ライター)>
*東京、高齢「買い物難民」増加が深刻化…栄養摂取に支障、健康被害の懸念(Business Journal 2018年6月22日)