学歴や所得で生活に差ができる「健康格差社会」の日本
日本には「健康格差」があると言われています。
収入や学歴が低いと、要介護状態やうつ状態になりやすいなど、健康状態にまで差が出てしまうとのこと。高齢者を対象にした大規模研究「JAGES(日本老年学的評価研究)」で、収入や学力と健康状態の関係性が明らかにされています。
さらに、JAGESの研究データからは、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」において、低所得世帯ほど、介護の時間が長くなる傾向があることも示されました(*)。
記事によれば、生活保護世帯と年収318万円以上の世帯とのデータを比較すると、生活保護世帯は週72時間以上家族を介護する可能性が、2.7倍も高かったとのこと。
生活保護受給者は、本来、介護保険サービスを自己負担なしで受けられます。にもかかわらず、家族による介護時間が長いとすれば、介護保険サービスについての情報が届いていないからではないかと指摘されています。
JAGESでは、このほかにも低所得、低学歴が引き起こす様々な影響が明らかにされています。
学歴と就いた仕事の労働環境や所得には関係があり、低所得、低学歴の人は、栄養状態も悪い傾向があります。また、高ストレスでうつになりやすく、社会的に孤立しやすい。さらには、歯の本数も少なく、ガンで亡くなる可能性も高所得の人に比べて高いのだそうです。
基礎学力の差で広がる情報収集の“格差”
今の高齢者の中には、戦時中に子ども時代を過ごし、満足に学校に通えなかった人が少なからずいます。貧困にあえぎ、生きていくだけで精一杯だった人もいるでしょう。その中には、計算や読み書きを十分に習得できなかった人もいます。
今、どれほどICT(情報通信技術)が進展しようと、読み書きが不得意だと、十分な情報を得られない可能性があります。
基礎学力を身につける機会を持てなかった人にとっては、世間一般で言う「常識」は、身につけていて当たり前ではない場合もあるのです。
介護職の方は、そうした、「持たざる」高齢者の存在を、肌で感じているかもしれません。
こうした高齢者には、あまり人前に出て行きたがらない人が多いと言われています。目立ちたくない。人前に出て恥をかきたくない。そんな気持ちがあるのかもしれません。
JAGESの調査結果でも明らかにされているように、基礎学力の習得が不十分だった高齢者は経済的に豊かでないケースも多く、病院の受診なども遅れがちです。助けを求めることが得意でない人も多いのでしょう。その結果、病気を悪化させたり、うつ状態になったりする可能性が高くなるのかもしれません。
高齢者に広がる“格差”を解消するための地域の場とは
JAGESの研究者は、こうした健康格差社会の渦中にいる高齢者たちを「格差」状態のままにしない上で大きな役割を果たすのは、「人とのつながり」だと指摘しています。
今、介護予防において地域での「集いの場づくり」が進められています。これは、人とのつながりづくりのためのものです。
かつて介護予防と言えば、筋力トレーニングなど、筋力低下の予防が「目的」でした。しかし今、筋力トレーニングや体操は、集いの場に高齢者を集めるための「手段」になりつつあります。
筋力を低下させないことも大事ですが、それ以上に、人とつながり、人を気遣い、気遣ってもらえる関係の方が、健康を保ちやすいことがわかったからです。
介護職をはじめとした支援職は、こうした場になかなか足を運ばない人を、家から引き出すこと、人と関わる楽しさを感じさせることに、是非その専門性を発揮してもらえればと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*老老介護、低所得ほど長時間 支援の情報、届きにくく(2018年6月26日 日本経済新聞)